傘もささず、藍(ラン)と銀(ギン)、ふたりの少年は薄ぼんやりとした闇に目を凝らしていた。

 夜に溶けてしまいそうに黒い黒い髪をしているのが藍、月光のように滑らかな色の髪をしているのが銀。少年達は、雨に濡れて滴る雫を厭いもせず、口を噤んだまま世界の縁に佇んでいる。

「…銀、彼処だ」

 やがて藍が、低く落とした声で呟いた。
 彼が指した先には、ぼんやりと淡い光を放つ螢火が揺らめいている。少年達をいざなうように舞う灯りは、蔦に覆われた堅牢な建物に吸い込まれてゆく。
 ふたりはその螢火を追って靴音を敷石に響かせた。

 やがて辿り着いたのは、孤児院の一室とおぼしき古びた扉の前。
 ふわふわと空中遊泳する螢火を眼前に、少年達は雨に濡れて額に貼りついた前髪を指先でぬぐった。

「…おいで、アヲ」

 藍が密やかに囁き、腕を差し出した。すると、その手のひらにふわりと螢火が舞い降りた。それは、濃やかな鱗粉をはためかせる青い蝶だった。

「案内ありがとう、おやすみ」

 アヲと呼ばれた蝶に藍が口づけると、青い翅がまばたくように震え、そして蝶は、ふつりと闇に融けた。

「さて、今夜のお客様は?」

 寝静まった夜の空気を破るような軽やかさで銀が言う。口端を上げて笑いながら扉を押すと、軋む音を立てて扉が開いた。


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