タタルさんと奈々ちゃんがめでたく恋人同士になったら休日はこんな感じですか? 的な妄想です。




 正午過ぎから降りだした柔らかな雨に、ひたひたと世界が浸されてゆく。

 部屋の中は、静かな雨音に満たされていて心地よい。まるで海底に沈んだ古代遺跡のようだ、と、奈々は若干の皮肉も含めつつ思う。
 あちこちに築かれた書籍の山々は、さながら朽ちかけた石柱か何かに見えなくもない。…という事は、その遺跡に潜り込んでじっと本を読み込んだかと思えば突然頭を掻きむしったり、ぼんやり宙を凝視したかと思えばハッと面を上げてノートに何やら書き記す崇は、遺跡の守り人か、或いはそれを暴く開拓者か…。くだらない空想が自分でも可笑しくなって奈々がくすっと笑みを零すと、崇がふと奈々の方へ視線を寄越した。

「何だ奈々くん、一人で急に笑い出したりして」
「タタルさんこそ」
「え?何が?」
「いいえ、何でもないです」

 恋人が部屋に来ている時ぐらい、趣味(というかライフワークというか)に没頭するのを休憩してもいいのではないか、とも思うが、そんな崇は崇ではない、とも奈々は思う。奈々は「お茶入れますね」と微笑みながら言って立ち上がった。



「奈々くん?」
「…あ、お茶じゃなくてコーヒーの方が良かったですか?」

 火にかけた薬罐のお湯が沸騰するのを待ちながら、奈々がくるりと肩越しに崇を見やる。が、崇がいたのは先程までの書籍の山の中ではなく奈々のすぐ後ろだった。

「タ、タタルさん、」

 ビックリしちゃうじゃないですか、と言いかけた奈々を、崇が背後からふわりと抱きしめる。

「ああ奈々くん、何処に行ったかと思った」
「…あの、タタルさん、もしかして寝呆けてるんですか?」
「断じて違う」
「私、さっきからずっと此処にいましたけど」

 頬を紅潮させながら身じろぐ奈々を更にきつく抱きしめて、奈々くんがいなくなったらどうしようかと思った、と崇が独り言のように呟く。

「タタルさん」
「ん?」
「大丈夫ですよ」

 沸騰を知らせてけたたましく鳴り響いた薬罐の火を止めると、奈々はゆっくり向き直って自分の腕を崇の背中に回した。

「私、タタルさんが大好きですから」

 静けさを取り戻した部屋に、また雨音が忍び寄る。「ありがとう」と答えて、崇は優しく微笑んだ。背の高い崇がゆらりと首を傾げる。それが合図のように奈々がそっと瞼を下ろすと、降り止まない雨の柔らかな水の檻に二人きりで閉じ込められたまま、崇は、そっと、慈しむように唇を重ねたのだった。

-END-

▼くそっタタルめ…、寝呆けたフリとかしちゃってさー、まったくお前さんって男は!覚えてろよっ!←誰?(笑)
とりあえず、神社に行けないような雨降りの日はこんな感じでおうちデートなのかなと。それもいいけど、本編でもそろそろカル・デ・サックに行ってくれないかなぁと待ち望むのは私だけではないはず。うん。



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