『神器封殺』文庫112ページ14行目からの妄想という事で。どうぞ〜!



 奈々は崇が冷茶を飲むのを見て、自分もそっと湯呑みを口に運んだ。温泉に浸かって乾いた喉に、ひんやりとした渋味が心地好い。

「私は…なんとなく目が醒めてしまって」
「さては奈々くん、今日の日前・國懸神社行きが楽しみでいつもより早く目が醒めたな? ちいさい頃は、遠足の前の晩、興奮して眠れないタイプだったのかな」

 くつくつと喉の奥で崇は笑う。奈々は「もう、そんなんじゃないですよ」と言ってから、ふと考え直したように言い直した。

「確かに今日の神社巡りは楽しみですけど…でもタタルさんには邪魔じゃないですか?」
「何が?」
「いえ、私と一緒だと、タタルさんが私の知らない『常識』を一々説明し直さなければならないでしょう? 私には聞き応えがあって楽しいですし、勉強にもなりますけれど…」

 ああ、と崇が奈々をちらりと見る。

「その事なら奈々くんが気にする必要はない。君に説明する事で、俺にとっても確認と復習になるからね」
「そう…ですか」

 それが崇の嫌味なのかどうかはさておいて、素直にほっとして微笑みながら奈々は崇に頷いて見せた。朝未だ来の薄暗い空を、それきり黙したまま並んで眺める。

「ところで奈々くん。沙織くんは、君の事となるとえらく必死になるな」
「え? そう…でしょうか?」
「ああ。今日の神社巡りも、俺と君の二人で行くようにと何やら力んでいたようだしね」
「それは、あの子が勝手に!」

 奈々は崇からの予想外の指摘(しかもそれが妙に的を射ていると来た)に焦りながら視線を宙にさまよませた。

「ああ見えて姉思いだね、彼女も。…だけど、あんな言い方をしなくても最初から俺は君を連れていくつもりだったのに」

 えっ、と瞠目して崇を見つめた奈々の右頬に、崇がすっと手を伸ばした。たった今温泉に浸かってきたからだろう、なんとなく指先が…熱い。奈々は逸る鼓動を抑えようと、ぎゅっと冷たい湯呑みを握りしめた。

「さっきも言ったが、君には迷惑かも知れないと思って敢えて誘わなかっただけだ。でも沙織くん曰く、俺の神社巡りに付き合える貴重な人間なんだろう、奈々くんは」
「タ、タタル、さん…?」
「熊つ崎に言わせれば、どうやら俺は完全な『変人』らしいからな。そういう意味では君には生涯苦労をかけるかも知れないね」

 生涯…ですか、と、奈々はぽつりと呟いた。そうだよ、と答えて、崇はゆっくりと奈々の左頬に唇を寄せた。湯上がりの柔らかな匂いが奈々の鼻をくすぐる。奈々は微動だに出来ず、ただただ眼前の崇の横顔を見つめていた。…永遠かと思われたその刹那、そっと唇が離れた。触れただけのそれは、駆け巡る血潮のように温かかった。

「…っ、タタルさん! まさか朝から酔っ払ってるんですか!」
「失礼な。君こそ酔っ払いみたいに真っ赤だぞ」
「そ、そ、それはタタルさんが…っ」

 バッと勢いよく立ち上がって言う奈々にふわりと笑いかけて、崇は冷茶を飲み干した。奈々はふう、と深呼吸してから再び崇の隣に腰を下ろす。崇のせいで変な汗をかいてしまったから、もう一度温泉に入って流してこようか…などと思いながら。

ーENDー

▼はい、遊月の妄想はおしまいです。速やかに『神器封殺』112ページに戻って下さい(笑)。お粗末様でした。



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