夕暮れ刻、控えめな陽射しが、柔らかな輪郭をした僕らの影を長く伸ばす。
僕は君の斜め後ろ、その影を踏まないように慎重に歩いている(こう言うとまるで僕がストーカーみたいで厭になるけど、帰り道が同じ方向なのだから仕方ない。それを避けて、帰り時間が重ならないよう普段は気を付けていたのに、今日に限ってコレだ)。
本当は駆け出して腕をのばして君と手を繋ぎたい、の、だけど。影ひとつ分の君との距離が、それを許すまじと声高に叫んでいるように僕には思えてどうにも身動きが取れない。
ちいさい頃はいつだって隣に居て、当たり前のように手を繋いでいたのに。何のてらいも躊躇いもなく手を握り合えていたのに。…いつからか、君も僕も、お互いの手をそっと離してしまっていた。
そんな事をぼんやり思っていた、その時。
「トモ」
不意に、くるりと音がしそうなほど勢いよく振り向いた君が僕を呼んだ。
「…何」
「んー、別に」
呟いたきり立ち止まると、君は僕を見つめて押し黙った。しばらくして、ゆらり、影がこちらに踏み出す。
「隣に並ぶの、ひさしぶりだね」
ああ、影が重なった。
トモは背が伸びたんだね、と言いながら微笑む仕草なんて、昔とちっとも変わっていなくて。
「せっかくだから一緒に帰ろ」
「…おう」
並んで歩く背中に夕暮れの空。そのはじっこに一番星が浮かんでいる。
「あ、夕星見っけ」
嬉しそうに君が笑う。君の声の向こうに、僕も同じものを見ていた事が嬉しくて。
「…トモ?」
僕は、きょとんとして僕を見つめる君の手をすばやく掴んで、自分のコートのポケットの中に押し込んだ。
君と僕の長い影が、さっきより少しだけ近付いた、そんなある日の夕暮れ。
-END-