携帯電話とにらめっこする時間が増えた。mixiのせいだ。初めは友達に招待されて、何の気なしに覗いただけだった、のに。

『いよいよ明日ですね』

 着信音がして携帯電話を開く。届いていた彼からのメッセージで告げられたカウントダウン。私も彼も、誕生日が一緒なのだ。その誕生日まで、あと一日。明日になれば、私も彼も、またひとつ年を重ねる。

 彼とは生年月日が同じ人が集まるコミュニティで知り合った。メッセージを交わすうちに、なんと同じ市内に住んでいる事がわかって、それ以来、日記やメッセージから垣間見える彼の穏やかな雰囲気や何気ない日常に、いちいち胸を踊らせたり弾ませたりしてしまう自分に私は気が付いてしまった。

 なるべく平静を装って、当たり障りのない返信を心がける。

『ついこないだ、あと1ヶ月ですねって話してたのに。時間が過ぎるのって速いですよね』

 本当は聞きたいのだ。

 当日は何か予定があるんですか? 誰かと一緒にその日を迎えるんですか? どんな人と、その大切な一日を過ごすんですか?

 出来ないまま送信したメッセージに、時を置かずして返事がやって来る。

『近くに住んでて何処かで擦れ違ってるかも知れなくて、誕生日も同じ日で、なのに行き逢うことがないのって不思議ですね。パラレルワールドにいるみたいな感じ。…って、バカみたいなこと言ってすみません。それでは明日は、お互い素敵な誕生日を』

 ああ、このままじゃダメだ。頭の中で警笛が鳴り響く。はやくはやく。後はどうなったって構わないから(だってそもそも会った事すらないんだし大丈夫!)とにかく繋ぎ止めるんだ。はやくはやくはやく。自分の声が、残響するように谺する。

『あの、質問いいですか?』

 指先が震える。見た事もない人に、もしかしたら本当は生年月日だって住んでいる場所だって性別だって嘘なのかも知れない相手に、それでも私は。

 深呼吸をひとつ。そして、ゆっくりと送信ボタンを押す。

 待つ事ほんの数分のはずなのに、頭から爪先まで覆ってしまうようにぐるぐると鳴り渡る警笛のせいか涙が出そうになってくる。手のひらでギュッと握りしめてしまえる程の、ちっぽけな通信機器が憎らしくて堪らない。

『実は、僕も尋ねたいことがあったんです。でも、お先にどうぞ』

 彼からの返信を見た瞬間、ざあ、と、さっきまで身体中を支配していた警笛が雑音となって遠退いてゆく。どくどくと脈打つ心音。

 私は意を決して、震える指先を再び携帯電話の上でせわしなく動かし始めた。

『じゃあ、明日はどんな一日を過ごす予定ですか? もし、もし良かったら……、』

-END-

1、2、3。様へ提出
 ┗警笛/mixi/パラレルワールド



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -