父が仕事のため街を出た。

家には俺と何人かの使用人だけで、静かすぎる建物は更に静かに建っていた。
俺はと言うと、不二に言われた琴が気になって仕方無く、父が居ないのをいいことにその琴を探していた。
朝から晩まで広い建物のどこを探しても見つからなかった。
使用人には言えない、残念ながら俺の家には俺の味方がいないからだ。


「…これか」
それは廃棄処分する予定のガラクタの山にぽつんとあった。
弦が切れて柄も消えかかっている年期の入ったもので、予想するに親族の形見なんだろう。
俺はそれを大きめの鞄に入れ、数ヶ月ぶりに不二の店へと向かった。
捨てるものだ、持ち出したってそんなに父が気にすることもないだろう。もしかしたら、無くなったこ とさえ知らないかもしれない。

「…それ」
不二にはあっさり再開出来た。
前に会ったときより細く、頼りなくなってしまった。
それでも残る艶やかさと壊れそうな幼さに不二を感じる。
一度しか会っていないのに、俺はもう不二に惚れていた。
「あぁ、これだろう」
途端に不二は泣き出して、わけのわからない俺はただ呆然とするだけだった。

ありがとう、ありがとう、なんど言われたのだろう。
不二はその後、沢山のことを教えてくれた。
「僕はこの茶屋で小さい頃から陰間をしてるんだ。この琴はね、弟が気に入ってた琴で、それで形見。…君のお父様がそんな汚い琴なんか捨てろって、変わりにこれをくれた。」

安易に想像がつく、大凡「醜い」だの「目障り」だの言 ったんだろう。我が父ながら、最低だと感じた。
不二の持ってる琴はとても立派で、弦が光を反射して金色にすら見えた。



「時々、会いに来てもいいか。」
俺の立場を気にしてか、単に嫌なのか、不二は眉を下げて笑っただけで答えてはくれなかった。
それでも心を開いてくれた気がする不二に俺は嬉しくなって、満足して帰っていった。



父が殺されたのは、その日の夜だった。






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