麗らかな昼下がり、何時ものようにソファで寝転がりぼんやりと天井を眺めていた銀髪の男は、和室で洗濯物を畳む少年に声を掛けた
−−なぁ、新八
−−何ですか?
−−自分が好きなヤツに、自分を見て欲しいと望むのは何てーの?
顔を上げた少年は少しく目を瞠り、自分に問うてきた男を見たが、直ぐにその表情と視線を手元に戻した
−−何でしょう 恋、ですかね
−−そうか
それで終わるのかと思えば、言いたいことは終わりでは無かったらしく、男は更に続けた
−−じゃあ、ソイツにもっと自分を意識して欲しいと望むのは?
−−恋、ですかね
−−じゃあ、ソイツに自分だけ見て欲しいと望むのは?
−−恋、ですかね
−−じゃあ、ソイツに自分の傍に居て欲しい、ソイツの傍に居たいと望むのは?
−−恋、ですかね
−−じゃあ、ソイツの笑顔を見て胸が熱くなるのは?
−−恋、ですかね
−−じゃあ、その笑顔をずっと隣で見ていたいと望むのは?
−−恋、ですかね
−−じゃあ、それを自分にだけ見せ欲しいと望むのは?
−−恋、ですかね
−−じゃあ、ソイツがくれる言葉や言動に自分と同じ感情を望むのは?
−−恋、ですかね
−−じゃあ、ソイツに触れたいとか、もっと自分を頼って欲しいと望むのは?
−−恋、ですかね
立て続けにつらつらと少年に問うこの男は、どうやら何を恋と云うのか解らないようだ
何せ、自分より一回りも年下の少年に聞いてくるくらいなのだから
いや、それでは語弊があるのか
今この男が挙げたものはどれも、純粋に相手を想うが故の感情
恐らく、今までの恋愛でそれを感じる恋をして来なかったのだ
そして今初めて、人を想ってそれを抱いたのだろう
そう少年は勝手に結論を下す
−−ふぅん、じゃあ
興味が無いと云わんばかりの生返事を寄越した男は、ぽつりと呟いた
−−じゃあ、その想いと時間が続くなら他には何も要らなくて、そこに居て、声を聞いて、目の前のソイツだけ見ていられれば良いと望むのは? これも恋?
再び手を止めた少年は、ゆっくりと顔を上げた
−−いいえ
姿の見えない男に向けて、少年はゆっくりと言葉を紡ぐ
−−いいえ、それは恋とは違います
−−違うのか じゃあ、俺が抱えるコレは何?
−−銀さんそれはね、 愛、ですよ
−−…そう、か これを愛と言うのか
嬉しさを滲ませた小さな声が、少年の耳に優しく残った
すると直後、男はすっくと立ち上がり、少年の元へ歩み寄った
その目前にしゃがみ込み、少年の黒い双眸を見つめ緋色の瞳を柔らかく眇める
そして少年の滑らかな頬に右手を添え、甘い声で囁いた。
「新八、愛してる」
"俺はもう、お前が居ればそれでいい"
END