飛べない鳥の話




※四季→旬




「ある所に、とても素晴らしい声で鳴く鳥がいたんです」
 四季が怪訝そうな顔で旬を見た。
 旬は気にせず、窓の外に目を向ける。空は茜色に染まり始めていて、鳥の声など聞こえはしない。かろうじて聞こえるものがあるとすれば、人をあざ笑う烏の声だろうか。
「鳥は、鳥かごの中で大事に大事に育てられていたんです。誰もが鳥の鳴く声を聞きたいと、集まってきました」
 四季の旬を握る手が強くなる。
 唐突に始まった旬の話に、ついていけていないのだろう。旬はおかしくなって、口元に笑みを浮かべる。四季は珍しく眉間にしわを寄せる。それでも、旬の言葉に口を挟まない辺り、彼らしいと思った。
「四季くん、鳥かごの中で生きる鳥はかわいそうだと思いますか?」
「へ? そりゃあ、かごの中って小さいし、かわいそうなんじゃないっすか?」
 旬は頷いて、四季の言葉を租借するように呑み込んだ。
「では、君は鍵を持っていたとします」
「鍵?」
 旬が注意を引くように、空いている片方の手をひらひらと動かした。
「そう、鍵です。鳥かごを開けるための鍵」
 旬は惚けた四季の手を軽く握った。まるで見えない鍵を手渡すかのように。四季はじっとそれを見つめて、手の平の上を眺めた。当然、そこに鍵があるはずもない。
「……そりゃあ、鍵があったらあけるっす。見せ物みたいでかわいそうだし」
「そうですよね、君はそうする人です」
 四季はむっとした様子だったが、旬は涼やかに笑った。
「鳥かごの扉を君は開けた。そうしたら、どうなると思いますか?」
「……逃げるんじゃないんすか?」
 旬は鷹揚に頷いた後、首を左右に振った。
「逃げませんよ。鳥は扉が開いたとしてもかごの中にい続けます」
「どうして?」
 四季の声が震える。かわいそうなことをしたかもしれないと思ったが、旬は特に気にもしなかった。旬が出来る精一杯のことを言葉で示したにすぎない。
「だって、鳥かごが鳥の世界なんです。自分の世界を離れて生きていけるわけないでしょう?」
 四季の力が緩んだのを感じて、旬はすぐに手を引いた。四季が、あ、と口を開いたが、もう遅い。
「僕はね、鳥かごから出たいなんて思ってないんです。この小さな世界で、生きていたいんです」
 求められたことをすれば、餌を与えてくれる人がいる。かごを出て、自分一人で生きて行くには僕の翼はもろすぎるから。





 四季わんは旬君の世界を広くしてくれそうだなという妄想から。
 鳥かごの鳥ってありがちだけど、旬君の世界はとても狭い気がしたし、ピアノを弾いてた頃の生活はまさにこんな感じだったんじゃないかなと思ってます。
 個人的に、えさを与えてくれる人は夏来(こちら側より)で、鍵を開けてくれる人は隼人や四季なのかなと。
 変わるきっかけをくれる、という意味では鍵を開けるのは、やはり隼人の方なのかな。四季は一緒に隣で歩んでくれるイメージがある、というよりそうしてもらいたい。








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