11日のジレンマ



※四季高2、旬高3の秋の出来事
多分、付き合ってる。




「あれ、シキ、まだ来てないの?」
 隼人が今気付いたように声をあげた。既に部室には四季くん以外揃っていて、皆で春名さんが持ってきたドーナツを食べていた所だ。
「誰か知ってる?」
 もごもごと、春名さんに渡されたドーナツを食べながら、隼人が尋ねる。
「いや、何も聞いてないけど」
「俺も……」
 来ていないだろうが、僕もつられて携帯電話を確認した。
 時刻は4時をとうに過ぎていて、委員会で遅れたりするなどの連絡は聞いていない。チャラついた格好をしているようで、あれでその辺の連絡はマメだから、黙って遅れるのは本当に珍しい。
多分、彼なりのけじめなのだろう。一人だけ年下で、先輩に追いつきたいと必死な、彼らしい考えだ。
 ちかちかと携帯電話が未確認のメールがあることを知らせる。何だろう、と思って宛先を確認した所で僕は携帯電話を閉じた。
「ジュンも知らないか?」
「え、あ、はい……」
 ごまかすように、ドーナツに手を伸ばす。珍しいな、と言ってドーナツを薦めてくる春名さんの言うことに任せて、僕はきなこがまぶされたそれを、床に粉を落とさないよう、慎重に口に運んだ。
(甘いな……)
 きなこの上品な甘さに、ドーナツ特有の小麦粉の甘さが更に上乗せされる。正直、何度も食べたい味だとは思わない。飲み物でごまかすようにしながら、僕はもう一度メールボックスを開いた。

 あて先は伊瀬谷四季。
 本文には、ただ一言「迎えに来て」とだけあった。

「ハヤト、僕、ちょっと探してきます」
「え、いいのか? 俺も行こうか?」
「大丈夫です。何となく、行き先は見当がついているので」

 冷え切った廊下の温度に、上着を持ってくれば良かったかなと思ったが、それだけで戻るのも格好がつかない。すぐに探し出して部室に戻れば問題ないだろう。
(とはいえ、どこにいるかなんて、さっぱり検討がつかないんですけどね)
 パカリ。時代遅れの二つ折り式の携帯電話を取り出して、もう一度メールを開く。あの一通以外、新しいメールは来ていない。
 おそらくいない気はするが、2年の教室へ足を運ぼうか。階段に向かうと、窓から差し込む西日の眩しさに目が眩んだ。
(もう、そんな時期ですか)
 既に季節は秋から冬へと様相を変えていて、気が付けば、コートを着ている生徒もちらほらいるくらいだ。校舎裏に生える木々も、既に葉を枯らして、枝だけの寒々しい姿に変わってしまった。
(もうすぐ、この学校生活も終わりか……)
 アイドルとしての活躍が認められ、4人全員どうにか同じ大学に進学できることが決まっている。受験戦争から一足先に、一抜けたというわけだ。連日予備校に通い詰めているクラスメイト達を見ていると少し申し訳ない気もするし、少し憧れを抱かずにはいられなかった。
(あ、そうか)
 旬は階段を降りる足を止め、今戻ってきた道を逆戻りして階段を上がっていった。


「……何してるんですか」
 窓際の、後ろから3番目。そこに四季はいた。机にうずくまるようにして、まるで寝ているみたいだ。
 教室の中は既に空っぽで、四季を咎める人もいない。
 まだ、気付いていないような四季に、少し気分が苛立つのを感じながら、教室の扉をわざと大きく開けて、四季の元へと向かう。
「全く、君は何がしたいんですか」
 前の席に座って、まるで友人同士がするように、後ろを振り向いて声を掛ける。これだと、錯覚してしまう。
「……迎えに来てって、メールしたっす」
 少しだけ顔をあげて、四季が半目でこちらを見つめる。何だか責められているようで、居心地が悪い。
「ちゃんと迎えに来たじゃないですか」
 何がいけないというのだろう。正直、四季の考えていることは分からないことが多いから困ってしまう。出来れば、理解したいとは思っているけれど。
「うん……」
 そう言って、また四季は顔を隠してしまった。ぴょこん、と少し跳ねたクセ毛が目の前でふわふわと揺れている。ぴん、と指ではじくと、その手を案外強い力で掴まれた。
「だから……っ」
 眼鏡の奥で、何か言いたそうにしている。こちらも負けじと真っ直ぐに見つめなおす。四季は口を尖らせて、少しだけ目が赤くなっている。そこで、旬はやっと四季が何を言いたいのか理解した。
(そうか……)
 この景色が変わる頃に、自分は、自分達はいなくなってしまう。旬は黙って四季の頭を撫で、そのままあやすように背中を撫でてやった。四季はそれでいくらか満足したようで、珍しく甘えるように旬の胸に頭を押し付けた。





 四季旬って、半年以上は同い年なのもポイント高いなと思います。
 あと少しだけ早く生まれてたら四季だって同い年だったんだよなと考えると、妄想がむくむくと湧いてくる気がします。
 四季っていつも賑やかしてるけど、旬君が誕生日を迎えたら、お祝いよりも物理的に追いつかれたって寂しがったり、先輩たちが卒業する時になったら表面には見せないけど、すごく落ち込んでそうだなと思いました。
 そういう時に、旬君が支えて上げたり、気付いてあげて「なに一人で落ち込んでるんですか!」とか激励して欲しいです。
 このネタもいつかしっかり描けたらいいな…いいな………








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