_に至る病



+ TRPGインセインの「_に至る病」で夏旬妄想
 シナリオのネタバレは有りませんが、気になる方はご注意



 今日もまた一人、人が死んでいく。
 がらがらと、ストレッチャーを慌ただしく引く音が聞こえる。続いて、職員たちの小さく潜めた声が。それらは、部屋の前で一際大きくなると、次第に小さくなっていった。
 旬は、音が止んでも、じっと扉を睨みつけていた。
 このサナトリムには、人の死が、溢れ返っている。
 科学の発展と共に、人類は幸福な進化を遂げるかと思ったが、それが夢幻となって久しい。今、世界には未知の病原菌が溢れ、100人に1人が奇病を発症している。奇病の治療法は未だ発見されず、奇病を患ったものは、回復する兆しを見せることなく命を散らしていった。
 感染症とはまた別のものだが、依然として治療方法は発見されず、政府は仕方なく、奇病を発症したものを、この孤島のサナトリウムに押し込めた。そうして、患者たちは隣り合わせにある死の影におびえながら、残された日々を過ごすのだ。
「……ジュン」
 いまだ扉を睨みつけている旬の肩を、夏来がそっと叩く。
「……」
 しかし、旬の反応はない。
 夏来は、部屋の中を少し見回して、締め切られた窓をそっと開いた。夏来の頬を冷たい夜風がそっと撫でる。
「ジュン、見て。今日は特に綺麗に星が見えるよ」
 サナトリウム周りには商業施設もないので、都会にいるよりも、よほど星が綺麗に見える。今日は雲もなく、絶好の観測日和だろう。
「……興味ない」
 旬はやっと扉から目を離し、ゆっくりと立ち上がり、夏来の隣に座り込む。
 がらがらと、命が消えていく音が、まだ耳から離れない。
 この部屋に来てから、何度も聞いた音だ。そして、次の日には、空いた席を埋めるように、新たな患者がやってくる。何度として見た光景だが、やはり慣れるものではない。
「風、寒かったら、言ってね……」
「……ナツキは、」
 ぽつり、と旬が声を出す。小さく震えているように聞こえたが、夏来は黙って次の旬の言葉を待った。
「ナツキは、怖くないのか?」
 あの音が。そして、嫌が応にも自身に迫ってくる死の恐怖が。
「俺は、ジュンと一緒に…いられれば、幸せだから……」
 夏来の言葉に、旬ははっと顔を上げる。見上げた夏来の顔は、いつもと変わらず、静かなほほ笑みをたたえている。
「……そっか、ナツキは強いんだな」
「強くなんて、ない…ただ、俺は……」
 夏来が秀麗な顔を少しだけ顰めて口ごもる。
 このサナトリウムでは、自身の奇病に関しては他言無用となっている。おそらく、自身の奇病を思い出しているのだろう、と旬は勝手に判断した。
「いいよ、言わなくて。もう、これ以上何かに煩わされるのはごめんだ。ここにいる時くらい、楽しい気持ちでいよう」
 元気づけるように、夏来の手をそっと握る。夜風にあたっていたせいか、夏来の手はひどく冷たかった。
「本当だ、今日はすごく綺麗に星が見えるな」
「……ジュン」 
 何度も聞き慣れた音程で、夏来が自分の名前を呼ぶ。そして、珍しく強く握り返された手の平に、確かに自分がまだ生きているのだと知る。
 あと何日生きられるのか――。
 常にまとわりつく考えが脳裏で煌めいたが、旬は考えないようにした。



 


 インセインは2人用のシナリオがとても素晴らしいものが多く、ついこのシナリオはこの二人でとか妄想してしまいます。
 この「_至る病」も個人的に、この2人にとても似合いそうなので、ぜひ見てみたいです。
 
 




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