僕らのスタートライン



※四季旬ラブコメもどき





「好きです、付き合ってください」 

 人もまばらな放課後の廊下、かすかに漏れ聞こえる生徒達の声を背景に、震える手を必死に前に突き出して、床を睨みつけながら、相手の反応をじっと待つ。
 これでも何度かドラマに出演してきたし、それなりの評価はもらってきたが、今の自分の演技は、底辺も底辺、見るも無残なものだろう。頭の中は真っ白で、今時、小学生でももっとまともな科白を言えるに違いない。
何だ、好きです、付き合ってくださいって、馬鹿正直にも程がある。頭が空っぽなのがよく分かる……って、確かに自分は考えるのは苦手だけれど、もう少しうまい言葉が思いつけるはずだ。歌詞を考えなければいけないのに、好きを好きって表現するなんてお粗末すぎる。
「……ジュンっち?」
 どうしようもないことが次から次に頭の中を駆け巡っていたが、相手からの反応は未だにない。普段の彼なら、即座に「何をふざけたことを言ってるんですか」と怒る所のはずなのに。
 男から告白されて、気分を悪くしたのかと、恐る恐る顔を上げたオレを待っていたのは、めったに見れない彼の表情だった。
 真っ赤――。
 熟れたリンゴみたいに真っ赤な表情だった。
 つられて、こちらも顔に熱が集まってくるのを感じる。え、何だ、これ。何かおかしいことになっていないか。
「え、あ、その……」
 次の言葉を言わなければ、と思うのに、妙な雰囲気のせいで言葉がうまく口をついて出ない。妙な雰囲気にしたのは他でもない自分のはずだが、それすらも忘れてしまっていた。
「……です」
「え?」
「良いです、お付き合いしてもって言ったんです!」
 旬は真っ赤な顔を、いつものようにしかめてみせて、そのまま階段を上がっていった。
「え、あれ……?」
 おかしい。何かがおかしい。自分の予定では、ここで盛大に旬に怒られて種明かしをして終わりのはずだったのに。
 事態をのみこめず、四季がしばらくそのまま突っ立っていると、肩で息をした旬がもう一度四季の所にやってきた。四季は促されるまま、旬の後をついていくことしか出来なかった。
妙な雰囲気のまま、いつもと同じ帰り道を二人で歩く。お互いに言葉はなく、先へ先へと歩く旬の背中を見つめながら、四季はいまだ事情を呑み込めず、ただ頭を抱えていた。




春に出したかった四季旬ラブコメ。
四季旬は、王道のラブコメとかすごく似合うと思います。
ミラフェスで出した本が、ない頭しぼって色々考えたりしたので、今回はさくっとした読み味の本に……なったらいいな。
多分、スパコミ辺りで出るかもです。

2017.3.24




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