苗木受けSS詰め
診断メーカーで140文字ssというのがあったので試してみました。
狛苗「夢だったらよかったのに」
今まさに希望が誕生しようとしている。モニターを見つめる狛枝の瞳は期待で満ち溢れていた。しかし、希望の誕生を実際に目の当りにした狛枝の心に浮かび上がったのは歓喜ではなく、嫉妬。感情を持て余した狛枝はモニターに思いきり拳を叩きつける。患部からは血が滴り、鈍い痛みが狛枝を襲った。
日苗「男のロマン」
目の前で眠る苗木に日向は顔を引きつらせた。急ぎの書類ということで、暑い中駆けずり回って来たというのに、当の本人は無防備に寝ているのだから世話はない。節電で空調の効かない部屋にいたせいか、苗木の肌にはうっすらと汗が滲んでいた。据え膳食わぬは男の恥。先人の知恵には従うべきだろう。
狛日苗「そのセリフ、そっくりそのまま返す」
男三人で遊園地。笑えない状況に溜息を吐きたくなるが、楽しそうに笑う少年の笑顔を見れば、そんな感情も吹き飛んでしまうのだから恋は偉大である。少年の笑顔に思わず頬を緩めると、視界の端に腑抜けた面がもう一つ。慌てて顔を引き締め、睨みつける。お互い思っていることは同じなのだ。
カム苗「大人の定義」
仮に一人立ちすることを大人とするならば、目の前で眠る青年は子どもということになるのだろうか。無菌の箱庭で蝶よ花よと育てられた彼は誰もが羨む才能をいくつも持っているが、この箱庭から出た途端生きられなくなる。彼の才能で世界は変わるだろう。けれど彼はここから一生出ることはない。
十苗「幸せになってよ」
自分達の他に墓を訪れる者はいないようだった。墓標の下に眠るは、かつて同じ時間を共有した仲間達。誰にも弔われない彼らのために、苗木は無理を言って彼らの墓を作った。手に付いた土の香りは自分達が生きていることを実感させた。久しぶりの労働で流れた汗を、木枯が労わるように優しく撫ぜた。
苗苗「足して割って、ちょうど」
気付けば目の前に居た自分そっくりの人間は、中身は線対称のように正反対の人間だった。苗木が右と言えば、彼は左と言い、苗木が好きだと言えば、彼は嫌いだと言った。苗木が喜べば、彼は悲しみにくれ、苗木が希望を手にした時、彼はその身に絶望を抱いた。どこまでも平行線を辿るボク達の関係。
絶希「こりないやつ」
自分が殺した人間との再会というのは不思議な物で、いっそ感慨深くもあった。以前と全く変わらない姿で現れた絶望に希望は謀らずも微笑む。役者と舞台は整った。さぁ、ショータイムを始めようじゃないか。絶望を絶望し、希望を希望するために。二人の目には、ただ狂気だけが宿っていた。
江苗「寂しいなんて言えない」
超高校級の絶望が死んだことにより、世界は次第に落ち着きを見せ始めていた。けれど、それとは正反対に苗木の心中は穏やかではなかった。苗木は久しぶりに彼女の死んだあの部屋へと足を向けた。当然のことながら、彼女の痕跡は一つも残っておらず、苗木は胸の苦しさに思わず涙を一つ零した。
苗舞「死にたくなる季節」
視線をやれば道端には黄色の花が色付き、春の来訪を告げていた。縁起の良いその花は、日の光の下で一番の輝きを見せ、人々を魅了する。けれどそれも束の間、初夏が来ればすぐに枯れてしまう様は生命の儚さを象徴するかのようだ。春の陽気は苗木に暖かさと共に、苗木の胸に消えない痛みを思い出させた。
苗霧「時間よ止まれ」
苗木の部屋を訪れた霧切は、机の上で書類に埋もれて眠る彼を発見した。締まりのない寝顔に刻み込まれた深い隈に少しだけ眉を顰めると、近くにあった掛布団をかけてやる。霧切は苗木が起きた時のためにコーヒーを沸かす。すぐに白い湯気が立ち込めた。そこにあるのは平和で穏やかな日常の一コマ。
あとがき
ブログに掲載していたんですが、折角なのでこちらにも。
苗苗の「足して割って、ちょうど」っていう表現が素敵で思わず感動してしまいました。
今度これをイメージして、狛=苗でやってみたい物です。
お題って消化出来る気がしないので手を付けないでいたんですが、今回のが予想以上に楽しかったので、何か良いお題を見つけたらまたやってみたいです。