お兄ちゃんは心配性



日苗兄弟パロ(狛→苗)





日向創は急いでいた。それはもう某有名文学作品の主人公もかくや、という程に。
何としてでもあの厄災に捕まる前に、どうにかしなければならない。

まさか、まさかまさか自分の弟が超高校級の幸運としてこの希望ヶ峰学園に入学するとは、お釈迦様でも思うまい。
弟が高校の名前を言わなかった時点で不審に思うべきだったのだ。
きっと驚くよ、と小悪魔さながらのごとく笑った弟の可愛さに悶絶していたあの時の自分を叱ってやりたい。
しかし、あの時の弟の可愛さといったら、まさに超高校級のそれだったのだ。
あれを見れば誰も自分を責められないはずだ、まぁ見せる気は毛頭ないが。
そんなことをつらつらと考えながら、日向は階段を2段飛びで駆け下り、保健室、購買部を尻目に脱兎の勢いで1年A組に駆け込んだ。
そんな鬼気迫る様子の日向を迎えたのは今朝方振りの自慢の弟だった。

「兄さん?どうしたの、そんなに息を切らせて」
「いや、お前の入学を一番に祝いたくてだな…それで、学園に入学するにあたって俺からお前にいくつか忠告を「あれ、日向くんじゃないか!」「こ…狛枝……?」

どうか外れてくれ、と普段信じもしない神様に全力でお願いしながら、日向は恐る恐る後ろを振り向いた。
案の定、そこにいたのは超高校級の幸運もとい変態が服を着て歩いているとまで言わしめた狛枝凪斗その人だった。

「こんな所で奇遇だね、日向くんも新しい希望を見に来たのかい?」
普段の日向ならば、お前のような希望厨と一緒にするなと突っ込む所だが、如何せん今は一刻も早くこの場から立ち去ることの方が重要だった。
可愛い可愛い(大事なことなので以下略)弟を狛枝なんかの毒牙にかけさせるわけにはいかない。

「いや、俺は丁度立ち寄っただけだ。そしたら、この子が気分が悪いらしくてな、これから保健室に連れて行こうとしていた所なんだ。それじゃ、また教室でな」
早口で要件を述べ、弟と共にさっとこの場を立ち去ろうとするも、日向の動揺を当然のように見透かした狛枝によってそれは叶わなかった。
「ねぇ、その子、そんなに体調が悪そうには見えないけど。君、名前は何て言うの?もし差支えなかったら僕に君の希望を教えてもらってもいいかな」
「え!?えっと、ボクは……「何、吐きそうだって!?悪い、狛枝、俺達もう行くから」

変態の質問に律儀に答えようとする弟の口を慌てて塞ぐ。
我ながら無理のある言い訳だと思いながら、日向は弟の手を引っ張って1階にある男子トイレの個室へと駆け込んだ。
狛枝が追いかけて来ないのを確認すると、日向は事態が呑み込めないでいる弟に向かって説明を始めた。

「無理やり連れ込んで悪かったな。ただ、この学園で生活するにあたってお前にどうしても忠告したいことがあってな」
「それであんなに慌ててたんだね。ボクのためにわざわざありがとう、兄さん」
理不尽といってもいい日向の態度を避難するでもなく感謝をする弟の出来の良さに感激するも、この事態の原因を思い出し、日向はお花畑に行きかけた思考を正して要件を伝える。
「ここは希望の学園とか言って持て囃されているが、実際はただの奇人変人の巣窟みたいなものだ。その代表といってもいいのがさっき会ったあいつだ。いいか、あいつにだけは絶対に関わるなよ。
見掛けたら全力で逃げるんだ、いいな」
日向の目を見つめて真剣に耳を傾ける弟の姿に、またも別の世界に行きかけるも、それはくだりの変態の登場により叶わなかった。「仮にもクラスメイトに向かってその言い方はないんじゃないかな…」

さっき撒いたはずの狛枝の声が聞こえて日向はサッと青褪める。
後ろを振り向くと隣の個室から憎たらしいもじゃもじゃ頭がこちらを覗き込んでいた。
呆然としている日向達をよそに、狛枝は個室の仕切りを跨いでこちらに侵入してきた。
超高校級の才能を持つ人間が集まった学園とはいえ、トイレの設備は普通の学校と同じである。
男子高校生が個室に3人…当然のことながら狭くてならない。
しかし、狛枝はそんなことは気にならないようで、ごく自然に自己紹介を始め出した。

「そっか、その子日向くんの弟さんだったんだね。言われてみれば頭のくせ毛がそっくりだね。
僕は狛枝凪斗。超高校級の幸運として一応この希望ヶ峰学園に在籍させてもらっているよ」
「えぇと、ボクは苗「こいつに自己紹介する必要なんてないぞ!」
狛枝の奇行に引きながらも、律儀に反応しようとする弟を日向は慌てて遮る。

「酷いなぁ、日向クン。まぁボクみたいなゴミ虫が希望に満ち溢れた君と口を聞くだけでもおこがましいのかもしれないけれど…」
「そんなことないです!」

キラキラと光り輝く効果音が背景に付きそうな弟の発言に嫌な予感がして、おそるおそる狛枝の方を盗み見ると、案の定いつもの症状が顔を出し始めている。
息も荒く、口から涎を垂らして恍惚とした表情を浮かべる男子高校生。
どうみてもただの変態である。
これだから会わせたくなかったんだ―――。
後で悔いるから後悔、この時程この言葉を実感した日はないと思う日向だった。
弟は日向や狛枝のそんな様子には気付かずにひたすら輝かしい背景をバックに言葉を紡ぎ続けている。
そんな様子に狛枝は一層目を爛々と輝かせるばかりだ。

「出会ってすぐのボクが言うのも何ですけど、狛枝?さんだってこの希望ヶ峰学園に入学できたんです、そんなに自分のことを卑下しないで下さい!」
我が弟ながら素晴らしい光だ。まるで自分が汚い物であるかのような気分になってくるから不思議だ。
狛枝の方を盗み見ると、感激のあまりか身体をプルプル震わせている。
こうなる気がしたんだ、と日向は一人遠い眼をしていた。

「すごい、すごいよ、想像以上だよ!君こそボクの求める希望に違いない!」
「えぇとボクはそんな大層な物じゃないと思うんですけど…とりあえず、ボクの名前は苗木誠です。これからよろしくお願いしますね、狛枝先輩」
「ボク堅苦しいのは苦手なんだ。だからいつも日向クンと話す感じでいいよ」
「じゃあ狛枝クンで……周りはすごい人ばっかりだから緊張してたんだけど、狛枝クンみたいな人もいるなら安心だな」

日向からしたらうさんくさい物でしかない笑みを浮かべて狛枝が苗木と仲良く握手する様を見て、日向は自分の計画が失敗に終わったことを悟ったのだった。
昔から猫を被るのだけは本当に上手だったよな、という場違いの感想を抱きながら、これから自分と弟に起こりうるであろう事態を想像して日向は胃がキリキリ痛むのを感じていた。


それから三人は個室から出ると、苗木をクラスまで送って行った。
その移動中もさることながら、クラスに着いてからも周りの迷惑など省みず、狛枝は苗木に集中砲火の如く質問責めを行い、それはホームルームが始まるまで続いた。
何をしでかすか分からない狛枝と可愛い弟を二人きりにするわけにもいかず、日向もその場に留まり、不本意ながら狛枝と仲良くホームルームに遅れるという新学期早々何とも不名誉な勲章を頂いてしまった。


「苗木誠クンかぁ、日向クンも人が悪いよね。あんな素晴らしい弟がいるのに黙っているなんてさ。
しかも、ボクから隠そうとしてたでしょ」
「変態から守るのは兄として当然の役目だろ」
「はぁ、苗木クンかぁ…日向クンなんかと出会ったのは彼に会うための布石だったんだね」
「お前って、本当に人の話を聞かないよな」
「ねぇねぇ、苗木クンって何が好きなの?そういえば日向クンって実家通いだよね、今度というか今日の放課後お邪魔してもいい?」

狛枝の申し出をどうにか断り、日向はこれからは狛枝のお守りだけでなく、弟をこの変態から守ってやらねばならないのかと思うと眩暈を感じずにはいられなかった。
胃がキリキリと痛むのを感じながら、日向は帰りに胃薬でも買って帰ろうと思うのだった。




お兄ちゃんは心配症

「兄さん、狛枝クンって話しやすくて良い人だね!」
「………(やっぱり俺がアイツを何とかしないと)」











あとがき

狛苗兄弟は見かけるので、アホ毛繋がりで日苗兄弟はどうだろう?と思って出来た産物
二人の名字が違うのは違和感があるからです←
便宜上、この話の中では寮か実家か選べるようにしています
思うように行かなかったのでお蔵入りしてたんですが、折角なのでアップ
他にもネタを考えているのでもしかしたら続くかもしれません←







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