メメントモリ
苗+霧(原作シリアス)
「ボクは彼らに酷いことをしようとしているのかもしれない」
「珍しいわね、落ち込んでるの?」
「ボクだって落ち込むことくらいあるよ」
そう自虐的に呟いた苗木の顔は霧切からは背中向きになっていて窺えなかった。
外の喧騒とは正反対に厳かな雰囲気を持った城内は物音一つなく、静謐な雰囲気だった。
苗木は入口のすぐ足元に書かれたパスワードをそっと撫でる。
陽の光が遮光されるためか、手にした石版は酷く冷たかった。
『11037』
「これがなかったら、きっとボクはあの時死んでいた。これは今じゃボクの希望の象徴みたいな物なんだ。
そして―――」
苗木は再び数字を優しく撫ぜる。
コンクリートで出来たそれに温もりなどは存在せず、やはり冷たかった。
「これを使わずに済めばいいっていうボクの希望でもある。
ボクは彼らのことを引きずっていくと言った。今でもその考えは変わらないよ。
だからこそボクは自分がやろうとしていることが正しいのか分からなくなるんだ」
江ノ島盾子に打ち勝ち、コロシアイ学園生活を切り抜けた自分を未来機関の人々は希望と崇め奉った。
でもそれは自分にとって重荷でしかなかった。
自分は平凡的なごく普通の学生で、他の生徒のように一芸に秀でているわけではない。
他人に誇れるような才能を持たないから江ノ島盾子の手に落ちずに済んだ。
ただそれだけだ。
だから自分が彼女に勝てたのは運が良かっただけなのだ。
むしろ、周りの皆、そして死んでいった仲間の支えがあったからこそだと思っている。
「ボク自身過去の記憶に支えられて生きているような物で、それを忘れたくないと強く願っているのに…ボクは彼らにそれを強制している」
「それがあなたの選んだ道でしょう?あなたは容易くないとわかっていながらこの道を選んだ」
「うん、ボクが彼らの分も抱えていかなければならない。ボクにはその義務がある…」
「あなたらしいわね。でも、そんなあなただから私達は付いていくのかもしれないわね」
地面から顔を上げた苗木の顔はどこか吹っ切れていたようだった。
それは丁度コロシアイ生活において彼がかつて見せたような決意に満ちた表情にどこか似ていた。
そんな苗木の様子を見て霧切はくすりと微笑んだ。
メメントモリ
(それが輝かしい未来に繋がると信じてーーー)
あとがき
苗木君自身が記憶に助けられてる部分があるので記憶を消すことについて悩んでたらいいなっていう妄想
個人的に霧切さんは励ますのが下手だと良い←