幸運な男と不運な男



幸運な男と不運な男の話
なんちゃって童話もどき(狛+苗+あの子)
 

 

 ある所に、とても幸運な男がいました。
 道を歩けばお金を見つけ、立ち止まった時でさえも、風が彼のために何かしらのものを運んでくれました。
 男は見た目も良かったので、村一番の美女から求婚を受けたりもしました。
 しかし、男は幸せではありませんでした。
 

 またある所に、とても不運な男がいました。
 歩けば野犬に追いかけられ、彼が立ち止まろうとすると、何かに足をすくわれるというありさまでした。
 男はいつも不運にまみれるので、薄汚れたボロをまとっていました。
 けれど、男はとても幸せでした。

 
 ある時、そんな二人が道の途中でばったり出会いました。
 幸運な男はみすぼらしい格好をした男を見て笑いました。
「キミはそんなみすぼらしい格好をして恥ずかしくないのかい?」
「キミは、本当に幸せなものは何か知らないんだね」
 不運な男は、幸運な男の言葉に悲しい顔をするだけでした。
「まるでキミは、本当の幸せについて知っているみたいだね?」
 幸運な男は、目の前のみすぼらしい男を哀れに思いました。
 男には幸運で手に入れたたくさんの財宝があります。
 けれど、目の前の男にはそれが一つもないのです。
 自分はとても不幸だけれど、目の前の男はもっと不幸に違いない、男はそう思いました。

「ボクは、キミみたいにたくさんのお金も持っていないし、見た目もみすぼらしいけれど、とても幸せだよ。本当の幸せは何か知ってるから」
 男の顔は確かに明るくかがやいたものでした。
 男はとても嫌な気持ちになりました。
 なぜ、何でも持っている自分は不幸なのに、目の前の何も持っていないこぎたない男は幸せそうにしているのだろう。
 男は、目の前の男が自分に負けるのが悔しくて、みえをはっているに違いないと考えました。

「かわいそうに、キミは幸せだと思ったことが一度もないんだね」
「何も持っていないくせに、どうして幸せだなんて言えるのさ?」
「ボクは確かに恵まれていないし、運もないけど、野犬に襲われたり、穴に落ちたとしても助けてくれる友達がいるから」

 友達? この男はなんて馬鹿なのでしょう、友達なんてものを信じているなんて。
 やはり、目の前の男は、見た目の様子そのままに、残念な頭をしているようだと、幸運な男は思いました。

「キミにはいないの? 困った時に助けてくれる友達が、嬉しい時に一緒に喜びをわかち合う友達が」
「そんなものは必要ないよ。友情を信じるなんて、キミは見た目同様、頭もみすぼらしいんだね」
 大きな声で笑うと、男はやはり例のあの目で男を見るのでした。
 なぜ、自分よりも不幸な人間に、あわれまれなければいけないのでしょう。
 男はもうがまんなりませんでした。
 男は持っていたナイフを手にすると、男を殺してしまいました。
「キミは、とてもかわいそうな人なんだね……」
 最後にそれだけ言うと、男は静かになりました。



 そのまま男をほうって、男は西へ向かって歩いていきました。
 幸いなことに、誰も男が人を殺したとは思いもせず、人々は男の持っている珍しい宝石に興味を持って集まってきました。
 けれど、ふとした時、男は不運な男が残した言葉を思い出すのでした。
 友情とはなんなのでしょうか。
 お金がなくても気にならないほど、幸せなものなのでしょうか。
 自分の持ち物や見た目に集まる彼らも、おそらく友人とよぶのでしょう。
 しかし、彼らを見ていても、彼らのあさましさにがっかりさせられることはあっても、心が安らぐことはありません。
 こんなにむなしいものを大切にしているなんて、あの男はやはり間が抜けていたに違いありません。

 
 男は再び、西へ向かって歩き続けました。
ひたすら歩いて来たので、ついには地平の果てが見えるようになってきました。
 少し疲れたので、ちょうど手近にあった石碑に腰をかけました。
疲れた時に、ちょうどよいものがあるなんて、やはり自分はついている、と男は思いました。
男が休んでいると、民家から女の子が出てきました。

 女の子は手に花を持っていました。
 おそらく、そこら辺に咲いていたものなのでしょう。
 男の目からすると、ひどくみすぼらしいものでした。

「どいてくれないかな?」
 女の子が言いました。
「どうして?」
「そこ、お兄ちゃんのお墓なんだ。お花が枯れちゃったから、新しいのに変えるの」
「あぁ、ごめんね。てっきり普通の石かと思っちゃって」

 男は立ち上がり、もう一度石碑を振り返りました。
 改めて石碑を見て、男はおどろきのあまり、持っていた荷物を落としてしまいました。
 すっかり忘れていましたが、ここは、男のことをかわいそうだと言った、あの男と出会った場所ではありませんか。
 男は、奇妙なめぐりあわせに、背中にいやな汗が流れるのを止めることができませんでした。

「どうしたの?」
 男の様子に、女の子が首をかしげます。
「いや、キミのお兄さんってどんな人だったのかなと思ってさ」
 男は、女の子のとなりに座り込み、あらためて墓標に目を向けました。

「お兄ちゃんって言っても、血のつながりがあるわけじゃないんだ。面倒を見てくれたの」
「へぇ、優しいお兄さんなんだね」
「うん、とっても。ちょっと人がよすぎるくらいだったけどね。最後も、誰かに殺されちゃったのに、その人を恨まないでって」
 その言葉に、男は女の子の話しているお兄ちゃんが、自分の殺した男だということを確信しました。

「……良かったら、これお兄さんに」
 男は、かばんの中から、ひときわ高価な宝石を取り出しました。
「その気持ちだけでいいよ。お兄ちゃんは、高価なものとかはいらないって、気持ちがもらえれば十分だって言ってたから」
 だからいつも貧乏なんだけどね、と笑った女の子の顔は、本当にあの男を心から慕っているのが伝わってくるようでした。
「素敵な、お兄さんなんだね。お兄さんも、キミみたいな子に慕われて、さぞ幸せだったろうね」
 女の子はてれくさそうに笑いました。
 男は、あらためて、胸のうちがもやもやしてくるような感覚におそわれました。
 それは、男を殺してから旅をしていた時、彼のことを思い出すと感じる痛みにとても似ていました。

「ねぇ、旅人さん、ここら辺は野犬が出るから危ないよ。良かったら、私の家に来る?」
「いや、もう少しここにいさせてもらうよ」
「そう? 気を付けてね」
そう言うと、女の子はまた民家へともどっていきました。

辺りはだんだん茜色にそまりはじめてきました。
遠くで野犬の遠吠えも聞こえてきます。
けれど、男はそこから離れることができませんでした。

「本当の幸せ、か……」
最後に男が呟いた言葉の意味が、今なら分かるような気がしました。
たとえ、自分が死んでも、あの女の子のようにお花をそえてくれる子はいないのでしょう。
男は、自分の両の目から涙が出ていることに気づきました。
涙は男の意志とは正反対にとめどなく流れていき、石碑をぬらしていきます。
そうして泣いているうちに、男の体中の水分が流れてしまい、男はその場でなくなってしまいました。

いつしか、そこには二つの石碑が出来たといいます。
よりそうように並んだ石碑には、幸せを運ぶと、旅の人から評判をえているそうです。







なんちゃって童話もどき。
童話って可愛いふりして結構えげつないよな、と思って、まるで対照的な二人に当てはめたら面白いんじゃないかと随分前からあたためていたネタ。
絵本みたいな柄が好きなので、おまけか何かで折り本にしたかった……。








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