死に至る病*
狛→苗(殺伐エロ)
窓のない無機質な部屋は、二人の関係を表しているかのように陰惨な空気を醸し出していた。
陽が当たらないせいか部屋の中はかび臭く、空気は湿り気を帯びていた。
使い物にならなくなった備品が収納されたそこは、とても綺麗とは言い難く、狛枝は嫌悪感に顔を顰めた。
狛枝は先程連れて来た苗木を慇懃に床に放り投げると、自身は手近にあった錆びた椅子に座り、無感動に苗木を眺めていた。
かび臭い匂いも鼻につかなくなった頃、先程まで一向に口を開こうとしなかった苗木がようやく喋り出した。
「こんなことしてセンパイは楽しいんですか?」
「つまらないことを聞くんだね」
グッと足に力を込めると下から呻く声がした。
その反応に少し満足すると、狛枝は改めて目の前に転がる苗木に目をやった。
小さい身体だ。
狛枝に比べて一回り以上も劣る身体は細身である狛枝にとっても十分組しやすい物だった。
身体の自由を奪われたというのに、尚も無駄な抵抗を続ける苗木を見るのは非常に愉快だったが、こんな状況になっても諦めようとしない苗木の表情が狛枝には酷く気に入らなかった。
希望を諦めないとでもいいたげなその目が、狛枝を無性に苛々させた。
何の才能も持たないくせに―――。
無意識に歯ぎしりをしていたのか、気付くと口の中で血の味がした。
希望ヶ峰学園史上最大最悪の事件が起こったことで学園、ひいては世界中に絶望が蔓延していた。
希望を愛してやまないと常日頃から豪語する狛枝も、己が希望を見出しやすいという理由から絶望の側に加担していた。
建前とはいえ、絶望の一員として希望を駆逐しなければならない状況は“絶望的”であったが、それ以上にこの後にやってくるであろう希望で狛枝の胸は一杯だった。
そうして期待に胸を膨らませていたのも束の間、狛枝は苗木誠を見つけてしまった―――。
狛枝凪斗と苗木誠は同じ超高校級の幸運だったが、特段交流があったわけではない。
狛枝は自分の能力を疎んでいたし、何よりただの平凡な学生でしかない苗木などに興味を示すはずもなかった。
しかし、学園を歩く彼を見て狛枝は初めて苗木誠という存在を認識し、そして絶望した。
苗木誠はまだ絶望に堕ちていない―――。
そのことはどんな事実よりも狛枝に衝撃を与えた。
希望の踏み台になるしか能のない存在が、その責務を全うしないで希望の象徴たる彼らと厚かましくも懇意にしている。
それは狛枝にとって許し難いことだった。
けれど、そんなものは建前で、本当は自分が絶望に堕ちたにも関わらず、自分よりも劣る存在が未だ希望の側にいるということが、まるで自分が彼よりも劣っていると言われたようで自尊心を傷付けられたように感じただけなのかもしれない。
狛枝は四肢を縛られて身動きの取れない苗木に再び目をやった。
殺さない程度に手加減をしてはいるものの、大して鍛えもしていない体はそろそろ限界を迎えようとしていた。
拘束してから何も与えていないのも相俟ってか、苗木の意識は朦朧とし始めているようだ。
ふと、狛枝は苗木のある一点が変化しているのに気付いた。
「生命の危機を感じると、人は本能で種を残そうとするっていうのは知識として聞いたことがあるけど……
キミの身体の方がよっぽど正直みたいだね。
まぁ、キミの場合はただのマゾヒストっていうのも考えられるかもしれないけど」
勃起した苗木の性器を足で撫で上げるようにしてやると、目の前の少年は面白いくらい反応を示した。
「……っ」
堪らず吐き出された息は、幼い顔には似合わず確かに性を感じさせる物だった。
薄れた意識の中、好ましくない相手に性器を弄られ、快楽を得てしまった自身の反応に戸惑う様は狛枝の何かを痛いくらいに刺戟した。
狛枝は自然と口角が上がるのを自覚しないではいられなかった。
それは純粋な好奇心から来るものなのか、はたまた違った物に依るものなのか、狛枝には既にわからなくなっていた。
「そのままの状態で我慢するなんて辛いだろう?ボクが手伝ってあげるよ」
善意の裏の悪意を隠そうともせず、事もなげに吐かれた言葉に、苗木は色を失くした。
手足を縛られ、かつ狛枝の暴力により既にぼろぼろな体に抵抗をする力など当然残っているはずもなく、苗木の少しばかりの抵抗は徒労に終わった。
そんな苗木の様子を楽しげに眺める狛枝の表情に苗木は背筋に冷たい物が走るのを感じた。
「ふっ…うぁっ」
苗木が達したのを見届けると、狛枝は手に付着した精液をべろりと舐めた。
苦さを通り越したそれは自分のでさえ気分の良い物ではない。
ましてや他人の物ならば尚更である。
しかし、不思議なことに悪い気分はしなかった。むしろ、胸が空くようで気分がいい。
ようやく、狛枝は自身もいつの間にか勃起していたことに気付いた。
「キミばっかり楽しい思いをするのは割に合わないよね」
はぁはぁと息も荒く、射精後の余韻に耽る苗木に狛枝の言葉の届かなかったようだが、狛枝は別段気にした風もなく、苗木が先程吐き出した精液を指に塗りたくると構わず後ろに宛がった。
「ひぅっ……」
突然の衝撃に目を見開く苗木に、狛枝は更に自身が興奮するのを実感した。
「絶望に堕ちた女なんか抱くのはごめんだったから、ご無沙汰なんだ。
折角だから相手してよ、キミも満更でもないみたいだし」
ニコニコと口元に笑みを浮かべながら服越しに自身の物を宛がってくる狛枝に、苗木は顔を青ざめることしか出来なかった。
「うん、いい顔だ。キミにはそういう顔がお似合いだ」
機嫌良く舌なめずりをした目の前の人物は、まさしく捕食者だった。
凌辱しているというのに、まるで恋人同士の睦み合いのように狛枝の手つきは優しかった。
それが苗木には気味が悪くて仕方がなかった。
苗木の吐き出した性器を蕾に塗り、狛枝は一本一本丁寧に苗木を解していく。
しかし、そんな部位を使ったこともない苗木にとってみたら、それらはただの暴力でしかない。
苗木は着々と侵入してくる異物感に目をつぶることでやり過ごそうとした。
「ねぇ、キミを今犯してるのが誰なのかちゃんと見てよ」
不機嫌を顕わにした狛枝が苗木の頬に、どこから取り出したのか、サバイバルナイフを突きつけた。
その表情は現在行われている行為の甘ったるさなど微塵も感じさせず、苗木を少しだけ安心させた。
狛枝の言う通り、苗木が目を開けたのを確認すると、狛枝はにやりと厭らしい笑みを浮かべ、ある個所を引っ掻いた。
「あっ、ああああっ……!!」
「あははっ、ここは前立腺って言って男でも感じられる場所なんだよ。
まぁ噂によると善がり狂ってノーマルには戻れなくなるって聞いたけど、キミなら大丈夫だよね」
苗木は押し寄せる快楽の波に抗うのに必死で、狛枝の言葉などまるで耳に入らなかった。
琴線に障ったのか、狛枝は一旦そこを責めるのをやめた。
「…はっ、はぁっ……」
「ねぇ、キミは今ボクに凌辱されてるんだよ。
凌辱されてるのに尻の穴弄ばれて感じちゃう変態なんだ、キミは。それをちゃんと自覚しなよ」
「、っ、違います、ボクは…ぁっ」
再び狛枝の指がしこりを刺戟し、言葉は続かなかった。
「キミの言葉なんか聞いてないよ。キミはここでボクに犯されて喘いでいればいいんだ」
そう吐き捨てると狛枝はズボンをずらし、苗木の後ろに自身を宛がった。
遠慮なく突き入れられた熱量は苗木の身体をいともたやすく破壊していく。
申し訳程度に解したとはいえ、元来受け入れるための器官ではないそこは狛枝を拒絶する。
しかし狛枝はそんなことを気にもせず無遠慮に侵食していく。
「いた、いたいっ……」
苗木が泣き叫ぶ度に狛枝の顔には笑みが深くなり、それとともに中の存在も主張を増していく。
耐え切れない熱量に苗木はこの現実から目を逸らすためにも苗木は顔を背けようとするが、狛枝はそれを見越したように苗木の顔を掴むと、自身の顔を近付けた。
瞬間、二人の距離はなくなり、そこには二人の吐息だけが入り混じる。
「んぅっ……!!」
突然の接触に慌てて酸素を求めて口を開けようとすると、狛枝の舌がねじ込まれる。
歯列をなぞられ舌を弄られて、呑み込め切れない唾液が口端から零れ落ち、生理的に流れる涙と交じり合い滴り落ちる。
「さっきから言ってるだろう、その眼に今誰が居るのかしっかり焼き付けるんだ」
「うぁっ!!」
狛枝の腰の動きが苗木の前立腺を刺戟し、苗木は堪らず嬌声をあげた。
何が起きたかわからない苗木をよそに、狛枝は機嫌良さげに重点的にそこを突いてくる。
狛枝は徐々に屹立し始めた苗木自身も扱き出し、苗木は快楽のあまり、ただただ涙を流すばかりだった。
「あっ、やだっ……いやだっ、」
「ほら、キミは後ろ突っ込まれて泣いて悦んじゃう変態なんだよ。もっと自分の立場を弁えなよ。
前と共に前立腺を意図的に攻め立てられ、徐々に絶頂へと高められていく。
狛枝も絶頂が近いのだろう、動きを早めると奥へ奥へと自身を突き動かしていった。
「あっ、あああああああ!!」
「こんなことまでして、あなたは結局何がしたいんですか…」
事後の余韻をうっすらと感じさせながら、息も絶え絶えに苗木は狛枝を睨み付ける。
こんなことをされたというのに尚も曇りを見せない苗木に狛枝は鬱積した気持ちを感じないではいられなかった。
どうしてこの少年はこんな仕打ちをされたというのに平気な顔をしていられるのだろうか。
「希望のためだよ。ボクらみたいな何にも才能を持たない奴は希望に縋るしかないじゃないか」
不機嫌を隠そうともしないで狛枝は苗木の質問に応じた。
そこには先程まで行われていた行為の名残は全く存在しなかった。
「それって他人任せみたいですね」
「うるさいな」
狛枝は持っていたサバイバルナイフを再び苗木に突き刺した。
顔を掠めたそれはうっすらと苗木の顔に傷を付けたが、目の前の少年は全く動じることなくこちらを見つめ続ける。
自分に凌辱されたというのに、変わらず真っ直ぐ見つめてくる苗木が狛枝には理解出来ず、狛枝は初めて目の前の少年を気味が悪いと感じた。
男として最大の辱めを受けたと言っても過言ではないのに、何故目の前の少年は絶望しないのか。
そもそも自分はどうして何も持たない存在をこれ程までに固執するのか。
幸運にも絶望の息がかからないだけで、狛枝が手を下さずとも勝手に絶望に堕ちることになるだろう。
何故、どうして…終着点の見えない疑問ばかりが脳内を占め、狛枝は計り知れない感情に困惑する。
「結局、あなたは自分に絶望して諦めているだけなんだ。そうして自分に都合のいいように希望を利用しているだけだ」
戸惑う狛枝をよそに、苗木は畳掛けるように言葉を紡いでいく。
「あなたは希望のためと言いながら、そうやって逃げてるだけだ!!」
「うるさい!!」
狛枝は堪らず苗木の首に手を掛けた。
細い首は狛枝の両手には余る程で、少し力を入れれば簡単に折ることが出来てしまいそうだ。
少年を征服した気になり、少し気分が落ち着くが、まるで怯みもしない苗木の様子に狛枝は動揺を隠せなかった。
「また…そうやって、暴力ですか」
「キミなんか希望の踏み台になるしか能がないくせに!!キミが絶望すれば、そうすればボクだって…」
そうだ、自分はこの少年に絶望してもらわなくちゃならないんだ。
そうしないと狛枝凪斗という存在は壊れてしまう。
本当は自分だって―――
「ボクは絶対に希望を諦めません、絶望なんかしない!あなたとは違う!!」
「………!?」
そう言い放ち、真っ直ぐ狛枝を射抜く目の中には確かに希望の光が存在していた。
狛枝が諦め、探し求めていた希望は、確かにそこにあった。
死に至る病
(それは絶望のことである)
あとがき
人生初エロです…自分で書いて初めてエロの難しさを実感した次第です。
エロ作家さんの偉大さを再認識させられました。
狛枝は自分なんかが希望にはなれないと諦めることで折り合いをつけてきたので、苗木君のように才能もないくせに諦めない存在は自身の在り方を脅かす危険因子でしかないわけです。
だから必死になって絶望させようとしたけどそうはいかない。
そうすることで、狛枝は自身の間違いを認めなければならず心の平穏も脅かされる、そんな狛枝が書きたかったんですが、力足らずで不完全燃焼です。
エロも不完全燃焼なので、もっと精進します……
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