彼の中での私の位置付けが分からない。
私をどうしたいのだろう。いつもニコニコ笑っては、酷い妄言を吐くのだ。それは私じゃない、私はそんな事しないし、した覚えもあるはずがない!そう言っていつも怒るけれど、彼には何も堪えてなくて、私の気持ちばかりが滅入る。
純真無垢な、天使のような思考をお持ちの彼は、嗜好が少し変だ。

「…あのねえ、キース」
「ん?何だい?」
「何度も言ってますけどね、私は貴方のお皿じゃないのよ」

もうすっかり冷めてしまっているから良いものの、これが熱々のままだったりしてみなさいよ…!想像しただけで手の平がジンジンする。

「え、違うのかい?そうだろう?」
「ち、が、い、ま、す!」

ずるずると先程から音を立てて、キースは私の手の平から目玉焼きの黄身を吸っていく。
キースは私の言っている意味が分からないようで、首を傾げると白身の部分に舌を伸ばす。

「っ…き、キース!」
「ん?何が違うんだい?」
「だーかーらっ私の手は!貴方の!お皿じゃないの!」

つるつると吸い込まれていく白身に、私を見上げる2つの目。
何で怒られているのか分かっていないのだろう。まあこの白身が無くなれば両手が自由になる…と思っていた所にパンが乗せられる。

「え…あの、キース」
「うん?何だい?」
「パン、は、置く意味あるのかなあ」
「あるさ!ほらジャムを塗るからじっとして」
「え、塗るの?」
「塗るに決まってるじゃないか!」

何当たり前の事を、とでも言いたげな顔をして、キースはパンにジャムを塗りたくっていく。想像していた通り、塗りきれなかったジャムが掌に零れてくる。
キースは満足気にジャムを机の上に置くと、むしゃむしゃとパンを食べていく。犬食いするのかと思いきや、普通に手に取って食べた。余計に私の手の上でパンにジャムを塗った意味が分からない。

「ね、ねえキース」
「美味しかった!ご馳走様!」
「…はい、よく食べました」
「おっといけない」

キースはペロペロと、私の手にベッタリ着いているジャムを舐め取っていく。時には吸い、時に甘噛みをして。

「や、ちょ、キース!」
「ん?」
「もう!いい加減にしてよぅ」

怒ろうと思っていたのに、ジョンのような無垢な目で見つめられて、語尾が下がってしまう。明らかにキースの方がおかしいのに、まるで私がおかしいみたいだ。

「何でだい?」
「何でって…その、私はお皿じゃないって、何度も」
「?何でだい?」
「何でって…」

子供のような問い掛けに何と言っていいか分からなくて言い淀む。そう真っ向から来られると何て言っていいか悩む。悩む事なんてないだろうに、私はキースにとても弱い。

「名前は私の全てを受け止めてくれるだろう?」
「え…う、うん?」

そんな私を見兼ねてか、キースが喋り出す。だが続いて出た言葉に愕然としてしまう。

「受け皿ということじゃないか!」
「え…」
「名前は私の物全てを受けないといけない!その掌で!」
「え、え」
「それに、名前の手が私は大好きなんだ!」
「え…」
「私好みの、白くてもちもちしていてすべすべで気持ち良い!こんな素晴らしい手を使わないでどうする?!そしてどうする!」
「え、キース、」

喋っている間にテンションが上がってきたのだろうか。力説するキースをポカーンと見ていたら、ガシッと手を掴まれる。

「お腹もいっぱいになったことだし、その手で私をもっと気持ち良くさせてくれ、いつものように」
「!いつも!してない!」

キースの妄言が始まった!この人は自分の都合の良い風に全て捉える。夢で見た内容や自分の希望通りの事をしてほしくて仕方ないのだ!口に出せば何でもその通りになると思っている!
…何でもその通りにしているのは、私なのかもしれないが。

「え?いつもしてるじゃないか、その可愛い手で私の物を何度も何度も擦り上げ」
「わーわーわーわー!し、て、な、い!」
「さあ行こう!そして行こう!」

ぐいっと手を引っ張られて、あっという間にキースにお姫様抱っこされる。

「え、何処に」
「決まってるじゃないか!」


私と君の愛の巣だよ!



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