ヒル魔さんの葛藤
くっそ。なんで俺がこんなことしなくちゃいけねーんだ。
それもこれも、あいつが悪ぃ。
……俺も悪かったかもしんねぇけどよ。
「糞」
甘臭ぇんだよ。
「全部1個ずつ詰めろ」
ショーケースを指しながら口早に言って。
早く帰りてぇんだ、さっさとしろ。舌打ちをしたら店員が怯えた顔でお会計を…と言った。
ピ―ンポ―ン
「…ヒル魔」
ガチャ、とドアが開いて、中には驚いた葉柱がいた。
「…なに」
まだ怒ってんのか。
「…悪かった、」
「‥‥‥俺のこと、あんま苛めんな。ばか」
一呼吸置いて、葉柱ははにかんで。
「つーか何持ってんの?」
差し出せば、葉柱の顔が一瞬で綻んだ。
「これ、駅ナカ限定100個のクリームブリュレじゃん。しかもこっちのは青山の美味いって評判のケーキ屋のやつ!これも美味いって評判のロールケーキ!こっちのは代官山にあるケーキ屋のやつだろ、これ食ってみたかったんだよなあ」
ペラペラと予約待ちがどーとか、即完売するからとか、聞いてもねーことを喋る。
「…これどーしたの」
漸く落ち着いて。
「やるよ」
「まじで!!?」
「おぅ」
「まじで、まじで、食っていーのかよっ!!?」
「いーっつってっだろ。それとも何か?俺が食うとでも?」
「………思わねぇけどー‥でもヒル魔が買って来たんだろ?」
「つーか甘臭ぇから早く受け取れ」
有無を言わせず上がり込んで。
「コーヒー」
言えばケーキの入った箱をテーブルに置いてキッチンへ。
鼻唄混じりに口ずさんで、コーヒーを持って来る。
「はい」
俺の前にコーヒーの入ったマグを置いて。
何から食おっかな〜♪と如何にも楽しそうだ。
「誕生日よりすげーかも」
パクつきながら嬉しそうに頬張る葉柱。
生クリームがついてるのにも構わず、食い続けてやがる。
「…ッ」
あ、やべぇ。今のキた。エロいんだよてめぇ。
あンときの顔に似てんだよ。ブッ飛んでイッちゃってるときと。
「美味ぇ?」
「おぅ!」
あーーーやっべーヤりてぇー
でも怒るんだよなあ、ケーキ食ってるときは特に。
「…なァ、」
「ヤらねーぞ」
っあ゙ー!くそっ!糞っ!!
「…ン?」
ヤベ、気付かれたか?後ろに移動してんの。
「食いてーの?」
「…口移しでなら」
「ばか言ってんじゃねーよ」
あ、やべぇ!今のやべぇ!!
「………っしゃーねぇなー」
お!?まじで?
「…はい、あーん」
「‥‥‥」
「美味い?」
「……糞甘ぇ」
くそっ!違ぇんだよ!!!糞っ!
スプーンじゃ意味ねぇんだよ!
「‥‥‥‥‥ひるまー」
「あ?」
「あり、がと…」
「…おう」
…ま、いいか。
食い終わるまで待ってやる。から、早く食え。