drug
「…………、……!」
声が聞こえる。
「……、──ル魔!ヒル魔っ!!」
「……はばしら…?」
葉柱、の姿が見えて俺が目を開けたんだと分かった。
「──おい!大丈夫か!」
うるせぇ、でけぇ声出すな。耳痛ぇ、糞爬虫類。
「今…救急車、──っ」
「……呼ぶんじゃねぇよ」
葉柱が携帯を取り出したのを見て懐の銃を抜く。
「…………でも、お前──」
「チッ、知ってる」
葉柱が携帯を締まったのを見届けてから銃を降ろす。仕舞うにはまだ早ぇ、左腕の傍に散乱する注射器と空になった袋。
糞、終わってたか…
携帯を取り出してワン切り。直ぐにヴヴ…と携帯が鳴る。メールには1時間以内に届けると。
「──は…」
気休め程度にはなるだろうと煙草に火を付ける手が震えて使いもんにならねぇ。
「…………」
葉柱が支えてくれた手で漸く火を付けて紫煙を吐き出す。
「──今から1時間以内に隣に来る奴が居る、そいつから受け取って渡せ。間違っても先に渡すなよ?中身を確認してから、だ。中身は白が──」
いくつだ?
携帯のメールで確認しながら指示を出す。
「白500だ──そこの丸ごと1ケース持ってきゃいい」
一瞥した先にはもう3つ4つしか無ェ。
立ち上がろうにも上手く膝がつけねぇ。葉柱が支えてくれてケースの中身を確認する。
「……………」
金はある。まだ隣の金庫にいくらかあるが思った以上に減りが早ぇな、糞。
「ヒル魔、」
ヴヴ…と携帯が鳴って到着を知らせるメール。マンションのロックを解除して葉柱を隣に促す。盗聴器を付けて。
「……………」
銃を一丁差し出すと葉柱は暫く立ち止まっていたが意を決したようにケースと銃を持って出て行く。
「………………。──────」
待て、あいつは男色家だったよな。俺と同類の趣味が近い──。何より葉柱は前科がある、俺含めヤバい奴らから目を付けられ易い。
「葉柱!」
『……なんだよ?』
ひっそりと潜めた声で返答が来て図らずもゾクリとした。
「──戻れ、今すぐだ!」
元々俺が行くべきだったんだ。
急いでパソコンを立ちあげ、まだ奴は──エントランスでエレベーター待ち、か。
間に合う。早く戻れ葉柱。
「……なんだよ、行けっつったり行くなっつったり?」
「─────」
玄関の鍵が開く音がして先程と寸分も変わらない葉柱が居た。
「……どした…?」
ギュッと抱き締めて代わりにケースを奪って出る。
間一髪間に合って部屋で取引を終えた俺は賺さずそこで血液から摂取した。
「───ッ!」
ゾクゾクと血が駆け上がってくる。一瞬の興奮状態になってから鎮まるそれは酷く身体を蝕む。
甘美な甘さに陶酔する。抱きてぇなあ…葉柱。
あぁ…手放せねェ。熟実感する。お前が居ねぇとだめだ。俺以外が触れるなんて許せねぇし許すつもりもねぇ。
「葉柱」
部屋に戻れば葉柱が居なくて。
「……………………」
居間はさっきのまま。何も、変わらねェ…?
血が駆け巡る。ドッドッ、と心臓が早鐘のように鳴る。
「──────」
「ヒル魔?」
発狂しそうになった刹那、葉柱の気配と声がして鎮まる鼓動に一息吐く。
「………………。」
「ヒル魔…?」
ギュッと抱き締めれば人肌を感じる。肩口に鼻を埋めれば葉柱が擽ったそうにするそこを軽く噛んで舐めれば酷く甘い。誘引フェロモンが出てるみてぇに俺を捕らえて。
「っ、」
俺の噛み痕が無数にある。そのほとんどが薄くて消えそうだ。
葉柱の首筋に今一度噛み付いてから唇に触れた。
"生"を実感する。もっと感じたくて貪る。
俺の下で死んだように眠る冷たい葉柱。