ksxx5

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檻の金魚





「……………」


とうとうあと一週間。この身が買われる。
嫌だ。
逃げ出したい───


「──待ちなっ、瑠璃!」


足の裏が痛い。ズキズキする。でも明日からのことを思えば。そう思って全力で走る。


「──自由…」


外に出たのが久しぶりで、うかうかしてた。気付いたときには遅く。
ドンっとぶつかった音がして尻餅を付いた。


「どこ見て歩いてんだ?あ゙ァ?」

「……すみません…」

「…お前──」


上から下まで舐め回すように見られて、居たたまれなさでいっぱい。


「瑠璃っ!!!」


げ。


「すみません…うちの子がご迷惑おかけしました」

「…お前陰子か」

「………………」

「……こいつ時間あるか?」

「へっ…?」

「借りていいか?」

「この子は身請けが決まってまして…」


男は懐から金貨を何枚か出しておかみに預けた。


「足りねぇか?」

「…………い、いえ!いってらっしゃいませ…」

「よし」


抱き上げられて、着いた場所は縁日。


「おっ、金魚掬いあるぜ。デメキン取ろうぜ」

「……きんぎょ?」

「見たことねぇ?あの、目でけぇやつ」

「?」

「ケケケ、お前と似てる」

「カッ!」

「ほらよ、お前にやる」


渡された袋には黒と赤のデメキンが1匹ずつ。


「……ありがと、う」

「……………。そろそろ帰るか」

「………」

「帰りたくねぇ、か…?」

「……………」

「話ぐれー聞くぜ?」

「…………」

「…まあ話したくねぇなら聞かねぇけど」

「……………………。身請けが、決まったんだ・けど。でも、俺を買ってくれたのは…ッ」


言葉が詰まる。背中を摩ってくれる手が優しい。


「………泣いてもいいぜ」


抱き締められて胸に顔を埋めて泣いた。


「……お前が、逃げてぇなら…」


わかってる。でも俺が逃げたらおかみにも、同期の連中たちや店のみんなに迷惑がかかる。
──だから逃げない。


「──俺、戻る…」

「…………そうか…。俺も近いうちに寄らせて貰うな、そんときは笑って迎えろよ?」

「………ん」

「送る。悪かったな、連れ回して」

「…………」


首を横に振って否定を示せば髪を撫でられた。


「ありがとう…」























* * * * * *

































金魚鉢の中でゆらゆら泳ぐ黒と赤の金魚。縁日に連れて行ってもらったときに買っていただいた。


「……揺れてる」


水が跳ねて水面が揺らぐ。


「…俺と一緒…」


決して出られない、仮に出れたとしても死が待ってる。檻からは出られない。自由とは無縁。夢のまた夢。
また今日も身体を開く。濁った空気。暗い照明。
自分の声が嫌だ。


「…………………」


明日、とうとう俺は買われていく。あいつも結局来なかったし…


「…………。っ、」


涙が溢れて頬に伝う。拭うこともせずに暫く静かに泣いていた。


「瑠璃、お客さんだよ」


おかみの声に涙を拭ってから返事をすると襖が開いた。


「遅くなって悪ぃ」

「ぇっ……」

「蛭魔様、これを」

「ん」


"蛭魔"?って…あの大商人…と同じ名…


「おかみ、瑠璃を身請けしたい。金は用意した」

「………。でも一条様が…」

「一条の野郎とは話をつけてきた」

「それなら…」

「瑠璃」

「……っ」

「また泣いてやがったな?」

「…っ…来ねー、かと…」


涙で前が滲む。もっと顔を見たいのに。


「遅くなって悪ぃ…一条の野郎がしぶとくてよ」

「…ん、」

「お前は俺のモンだ」

「……………」

「返事は?」

「…………はい…!」







Fin.


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