Anxiety
喧嘩した。
いつもの、俺の虐めに付き合って呆れながらやんのじゃなくて…。
俺が悪ぃんだけどよ…
いつもは葉柱が先に謝ってくれるか、俺が謝りやすい雰囲気を葉柱が作ってくれっから。
でもこれは。
思い当たることがありすぎてどれに怒ってんのか分かんねえ。
葉柱が昨日のことを根に持ってるとは考え難い。それに、昨日は仲直りしたし。たぶん。出来たはず、だ。
じゃあ何だ。仲直り(たぶん)した後無理矢理ヤって中に出したことか?それとも朝…
「……はよ」
「…おう」
些か緊張しながら返事をすればいつもと大差ない気がしないでもない。
「今日はいつもどーりでいいのか?」
「ん、」
葉柱が淹れたコーヒーを飲みながら席に着く。
テーブルの上には甘そうなジャムが並べられていて、横にはフルーツヨーグルト。スクランブルエッグを口に運ぶと砂糖の甘味がきいていて…
「………」
見ないようにしていたが、目の前にはオレンジ苺パインピーチリンゴ、のフルーツ5点盛り。
見たぜこれ、前行ったキャバクラであった…。
「………。」
やっぱ怒ってんのか?
いつも和食で味噌汁と焼き魚と納豆で出てくんのに今日はクロワッサン?たまに洋食があっても食パンを焼いたトーストとベーコンエッグだったじゃねぇか。
俺が甘ぇもん食えねぇって知ってんだろ?何年一緒にいると思っ、て…
―それか、もしかして?
さり気なくカレンダーを見れば…うわ、まじかよ。
あー…お前分かり難ぃよ。
「………ルイ…」
「…なに。」
「…怒ってんのか?」
「お前がそう思うんならそーなんじゃねぇの」
「悪ぃ、記念日忘れてて…」
「は?」
葉柱はびっくりした顔をしてからカレンダーに目を走らせた。
「昨日、で、5年…か…」
葉柱も忘れていたらしい。
原因は違うことのようだ。
「今日飯行かねーか?」
記念日だし、忘れてた詫びも含めて。
「……………。『マユ』、って、誰だよ?」
瞬時に脳内スパコンを一気に働かせる。約0.001秒。
「専務の娘。たまに連れて「お前は専務の娘にも手出すのか?」
「……………。」
「お前、昨日言ったよな。キャバクラは専務の接待で行ったって。プライベートで遊んでねぇっつったよなぁ?」
「……………。」
『マユ』、は―六本木のキャバ嬢で、ぶっちゃけ…寝た。
葉柱によると、朝俺が起きる前に一度起きたらしい。軽くちょっかい出したら寝言で言っちまったみてーで…。
「聞き間違いかと思ったぜ」
だからか…、起きてから一発ヤろーと思ったらいつも以上に叩かれた手が痛かったのは。気のせいじゃなかったみてーだな。
「……あのさあ、別にお前が何人と寝ようがいーんだけどよ?俺もヤッてっし。でも名前間違えるってのは無しだよなあ…」
「あ?」
「ヒル魔がモテんのは昔からだし、俺が1番な、ら・ッ!?」
「―何。お前、俺以外とヤッてんの?」
しまった。つい気付かなかったのが悔しくて口が滑っちまった。
ヒル魔が会社に仕事しに行った後、配達しに来た奴とかネットで知り合った学生とか訪問販売のリーマンとか。デリホスも何回か。
「へぇ」
「…だって…お前仕事で疲れてんのにんなこと言えねーじゃんか。」
抱いてって…恥ずいし。
「だからって誰のモンでも喰っていいって話になんねぇだろ」
「お前が…したんだぜ…」
こんなエッチな躯に。ハジメテも、純真無垢だった俺に…。
「今じゃ悦んでチンポ咥えるもんなあ」
「………」
「とりあえず、今日は休みな。ろくなもん食ってねーから腹減ってんだよ」
「悪かったって…今から作っ…、!?」
「だからお前が先。」
ヒル魔はとりあえずベッドな、と言って。
その日は久々に1日中ベッドにいた気がする。
やっぱり、ヒル魔が1番イイ―
「今更なんだよ」
「…ん、ごめん。でもお前だってなあ…!」
ひでぇことしたんだぜ?
「ごめんな、でもちゃんとお前が1番だから。な?」
「ゔ…、」
謝ればいいってもんじゃねぇんだぞ…くそ…。んな声で言うの反則だ。ずりぃ…。