たまには出かけます。
カタカタ。
ヒル魔がパソコンのキーを叩く音が聞こえる。
何となくテレビをつけたまんまにして過ごす休日。窓から差し込む太陽の陽射しが心地よい。
いつもはアメフトアメフトアメフト、アメフト。休みの日だってアメフト。資料整理に分析。ヒル魔は忙しい。俺だって忙しくねーわけじゃねぇけど、さ。
最近じゃ半同棲みたいになってて。俺のマンションよりヒル魔のマンションにいることのが多い気がする。
ヒル魔の邪魔にならない程度に持ち込んだ雑誌を捲りながら惰眠を貪る。やばい。本気で眠りそう。
「…寝ンならベッドいけよ」
「んー‥‥」
キーを叩く音が止んで、ヒル魔の指が髪を鋤く。あー何か気持ちい…
「………ルーイー」
「‥んー‥」
「ハチュールーイ」
「んー‥‥」
「飯にすっかー」
「んー‥」
「んー?」
「んー‥‥‥」
ぼすっ
「んぎゃっ!」
クッションが鳩尾辺りを直撃。
「…ッにすんだ」
「べっっつにいぃー」
「‥‥‥‥‥」
言い返そうと思ったが、しても結局負けることを最近学習し始めた。黙って起き上がれば、ヒル魔はパソコンを閉じていて。
「もーいーのかよ?」
「急ぎはねぇ」
「…ふぅん」
ちらりと時計を見れば長針と短針が重なっていて、いつの間にか時間が経っていたことが伺えた。もー昼じゃん。
「………………。何かあったっけ‥」
冷蔵庫を見て、昼飯のメニューを考える。
が。
「…何もない」
「買い物行ってねーからだろ?」
呟いた言葉にすぐ後ろから返答が返ってきた。
「お前がいいって言ったんじゃねーか…」
俺買ってこうっつったのにヒル魔はコンビニで晩飯だけ買って速攻帰るとか言うし。で、マンション着いたら着いたで、晩飯もそこそこにソファーで………
「…………………。」
「お前考えてっこと丸分かり」
「カッ!!!?」
「首から上があけーよ」
流石カメレオン、と言ってヒル魔は首筋に唇を落とした。
触れるだけの軽いものだったけど俺はびっくりしたわけで。
「………ッ!」
ビクッと反応しちまうのは習慣みてーなもん。嫌だけど。
「食いにこーぜ」
素早く離れたヒル魔は言うと同時に俺のキーを放り投げた。
久しぶりのでぇと。飯食いに行くだけだけど。学校帰りに行くファミレスとは違って、なんだか嬉しい。
地下にある愛車を思い、受け取ったキーを握り締める。
「………おぅ」
帰りに食材買わねーと。
「…で、何食いにくんだよ?」
「ちょっと遠出しねぇ?」
「…いいけど、」
「決まりな」
部屋着から着替えてヒル魔に尋ねる。
「どの辺?」
「中華」
「中華?」
「街」
「中華街??‥‥横浜かよ」
「いーじゃねーか、ついでに神龍寺行ってくっか?」
「えーーー」
「ばーか、冗談だっつーの。折角のデート邪魔されたくねぇかんな」