一輪の小さな薔薇 | ナノ

21


パウリーさんにキスをされてから数日が経った。あの日以来私たちは顔を合わせていない。私は会ったら突き飛ばしてしまったことを謝りたいのに。

あの日、パウリーさんが出ていってから冷静になり考えたが、彼は私の事を好きなのだろうか。今までの行動を考えたら、何となくそんな気がした。何で今までしっかり考えなかったのだろう。あのファンの人達に何をいわれようがしっかり考えていたら。


「謝ろう。 そして私の気持ちを伝えよう」


もし、彼が私を好きでなくても気持ちだけは伝えたい。そう思った私は家を飛び出し、どこにいるかわからないパウリーさんを探しに中心街へと向かった。


「一番ドッグにいるかな」


独り言を言いながらも一番ドッグ近くを歩いていれば、見慣れた姿が目に止まった。それはルルさんで、でも彼は一人だった。


「ルルさん!」
「ん、ナマエ!」
「こんにちは! あの……パウリーさんって一番ドッグにいますか?」


駆け寄り、そう質問すれば怪訝な顔をするルルさん。今まではこんな質問はしなかったから不思議なのだろう。今まではこうやって私が探しに来なくても来てくれていたのに。


「いや、どうだろうな。 オレも戻るから一緒に行くか?」
「はい」


ルルさんの申し出に頷いたが結局、パウリーさんの姿が見つからなかった。もしかして、私避けられてる? そう一つの疑問が浮かんだ。私があの時拒んだから? それとも、私の言葉が彼を傷つけた? 一番ドッグで考え込んでいれば、それを見ていたルルさんが「ガレーラの本社にいるんじゃねぇか?」とアドバイスをくれた。


「本社……行ってみます!!」
「あぁ、なんか良くわかんねぇけど頑張れよ」
「……はいッ!!」


私はルルさんに笑顔で返事をし、ガレーラの本社へと向かった。自然と早歩きになり、胸が高鳴っていく。


「パウリーさん許してくれるかな。 なんかお詫びのもの買っていこうかな」
「ねぇ」
「!!」


足早にガレーラの本社へと向かう途中、考え事をしていれば後ろから聞いたことのある声がして私は足を止め、反射的に振り返った。そこにはこの間の三人組が私を睨んでいて。またこの人達か。と心の中でため息をつきながらも「何ですか?」と尋ねれば、三人はほくそ笑んだ。


「あら、もう泣き止んだのね」
「……あなた達が去った後、すぐに泣き止みましたよ」
「何? 生意気、子供のくせに」
「子供って一応、私は大人ですけど」


以前の態度と違うせいか、ファンの三人はとてもイライラしているようで、顔を歪めている。前の私とは違うんだ、何を言われても平気。そのくらいパウリーさんの事が好きになっていた。


「で、……パウリーさんの事諦めたの?」
「いや、諦める理由がありません」
「なッ!! ……だから、あんたみたいな子供「あなたはパウリーさんの女性の好みを知っているんですか?」
「ッ……」
「それに、子供に見られてようが好きなものは好きなんですよ。 あなた達もでしょ? ……あッ! パウリーさんの居場所知りませんか?」


思ったことを一気に言ってしまえば、心のつっかえが取れたようにスッキリとした。最初からこうすれば良かった。言い返されると思ってもなかった三人は顔を歪めたまま私を睨み付けてきて。そんな事をされたって平気。それより、パウリーさん探してるんだけど。


「あの、聞いてます?」
「チッ……」


何も言い返してこない彼女達に小首を傾げながらも、尋ねてみれば、一人が舌打ちをし、三人は去っていってしまった。彼女達は結局、私がパウリーさんと親しげにしていたから、気に食わなかっただけのようだ。ただの妬み。妬みほど醜いものはないと、今そう思ってしまった。

そして私は彼女達が去っていった方をぼんやり眺めていれば、また後ろから声をかけられて。振り返れば今度はスーツを着た男三人が立っていた。この人達見たことある気が……。


「何でしょうか」
「あなた、パウリーの女ですよね?」
「…………ん?」


男の言葉で唖然としてしまう。どうやらまたパウリーさん絡みらしい。何で彼に会いに来たのに、パウリーさん本人ではなく彼関係の人ばかり現れるんだ。それにパウリーの女って、彼女の事だよね? 確かに好きだけど、まだ彼女じゃないし。


「あの、私……彼女じゃないです」
「いつも一緒にいましたよね」
「えっと……」
「パウリーの居場所教えていただけませんかね?」


男達と会話をしているうちに思い出した。この人達、パウリーさんの借金取りだ!! 以前私を抱えて逃げていたとき後ろにいた気がする。でも私もパウリーさん探してるんだけど。と思う私を他所に借金取りの男は私に近付き、彼の居場所を聞き出そうとしてくる。


「私だってパウリーさん探してるんですよ」
「庇ってもダメですよ。 居場所を教えてくれればあなたには何もしません」


教えなかったら何かするつもりなの? 本当に知らないし、どうしよう。人の話を聞かなすぎる男達に困惑していれば、ジリジリと近づいてきて、私は咄嗟に後ずさる。もう、仕方ない。話しても聞く耳もってくれないなら逃げるしかッ!!

そして私は男達から逃げるため、走り出した。


「あッ!! 待て!」
「やっぱり、居場所知ってるんだろ!!」


走り出した途端、大声をあげ追いかけてくる男達。これじゃあパウリーさんと同じ状況じゃない! もう、ファンといい、借金取りといい、パウリーさん絡みはろくなことがない。ファンは仕方ないが、借金取りはギャンブルなんてやめて返せばいいのに!

心の中でパウリーさんに対して悪態をついているうちに街中から、大階段へと差し掛かる。しかし、ずっと走っていて、息が上がり足元がふらつく。


「きゃッ!!」


ふらついていた足で降りようとした階段を踏み外してしまい、体のバランスが崩れ、そして司会は空と階段をぐるぐると回り、体は階段から転げ落ちる。その時に何度も何度も頭を打ち付け、階段下へいく頃には私は意識を失っていた。