一輪の小さな薔薇 | ナノ

19


次の日になり、私はセント・ポプラまでパウリーさんにあげるためのボトルシップを買いに行き、そのまま彼に届けに行こうかと、ウォーターセブンの中心街を歩いていた時の事だった。

知らない女性三人に声をかけられ、私は今薄暗い路地裏へと連れてこられたのだ。


「ねぇ」
「は、はい」


連れてこられ、戸惑っていれば三人は私をキッと鋭い目付きで睨んできて。恐ろしくてつい縮こまってしまう。何、この人達。私、何かしたかな。いろいろと考えてみるも、心当たりはない。


「あんた、パウリーさんの何?」
「え?」
「この間、一緒にいたでしょ」
「彼女……じゃないよね?」


三人同時に質問をしてきて、私が逃げられないよう壁へと追い込んでくる。背中が壁に当たれば、服越しにひんやり冷たさが伝わってきて。そして彼女達の質問でなぜ私がここへ連れ込まれたか、なぜ睨まれているのかわかった。この人達はパウリーさんのファンか。……というか、何このベタな展開。


「ちょっと聞いてる?」
「……もしかして、パウリーさんのファンですか?」
「そうよ! というか、質問に答えなさいよ!!」


私が質問で返した事が気にくわなかったのか、顔をしかめて肩を押してくる。だが、そのくらいでビクビクしたりはしない私は、自分はパウリーさんの何なのかを考えてみる。何だろう、知り合い? 友達? ……今となっては私は友達以上だが、彼はどうなんだろう。やはり友達なんだろうか。


「友達……かな」


曖昧にハッキリとは言わず、濁らすように行ってみればそれも気にくわなかったのか「ふざけてんの!?」と余計怒らせてしまったようだ。別にふざけてはいない。本当に彼との関係がよくわからないだけ。


「もしかして、あんたパウリーさんの事好きなの?」


曖昧に答えていた私を見て、女性の一人がそんな事を言うもんだから、私の鼓動は飛び跳ねた。そして咄嗟に俯けば、頭の上からは「ふんッ」と鼻で笑われてしまう。好きだよ。好きじゃいけないの? あなた達だってパウリーさんの事好きなくせに。だからいつも追いかけてるんでしょ。なんてハッキリ言えればスカッとするんだろうな。

でも言い返して、ケンカにでもなったら困る。それにまだパウリーさんに気持ちバレたくなかった私は、言い返したい気持ちをグッと抑え、我慢した。


「あんたみたいな子供が相手にされると思ってるの?」
「え……」
「確かにあんたみたいな子供をパウリーさんが相手にするとは思えない」


その言葉で顔をあげれば、私を見下しながらも嘲笑った。子供……そっか、私はパウリーさんからしてみたら子供なのか。だから女として見られてなかったんだ。思ったよりもこの人達の言葉が突き刺さり、涙が溢れてくる。

じゃあ、またこの恋も諦めなきゃいけないのか。カクさんの時のように。ルルさん達は応援してると言ってくれたが、子供と思われているなら成就するはずがない。何だかそれが悔しくて、悲しくて、辛くて涙がボロボロと溢れ出てきて止まらない。そして私は耐えきれず、その場にしゃがみこみ、踞る。


「あ、泣いてる」
「あらら、泣いちゃった」
「ナマエ?」


私が泣いたことにより、嬉しそうに言う彼女の声に混じって、聞き覚えのある声が突然聞こえ、体がビクッと反応してしまう。その声はパウリーさん。きっとたまたま通りかかって見つけたのだろう。しかし女性達もパウリーさんに気が付き、騒ぎ始め、走る足音がしたかと思えばその場からいなくなった。パウリーさんの声もしなくなった。

恐らく三人に追いかけられて、逃げたのだろう。だけどちょうど良かった。こんな泣いてる姿なんて見られたくなかったから。


「ボトルシップ……どうしよう」


三人がいなくなって、少しして涙は止まった。私は一人呟きながら、手に持っていた袋の中に入っている包装紙を見る。成就の望みがないのなら諦めるしかないのか。だが、このボトルシップは部屋にあると今の事を思い出してしまいそうだ。なら、いっそいらないと言われても渡してしまおう。


「よしッ」


完全に落ち着いた私はその場から立ち上がり、家へと向かう。