一輪の小さな薔薇 | ナノ

17


自分の気持ちを自覚してからルルにばれ、そのルルにナマエをデートに誘うよう言われ、誘っちまったが迷惑じゃなかっただろうか。……しかし、誘ってしまったものは仕方ねぇ。バクバクとうるさく波打つ鼓動を聞きながらもオレはそのナマエの家へと向かっていた。

まさか、あの時アイスバーグさんまであんな事を言うとは。本当は今日、仕事あったはずなのに。

そして考え事をしながらも歩いていれば、もうナマエの家の前に着いていた。震える手でいつものようにノックすれば、扉の奥からナマエの「はい」という声がし、扉が開いた。


「こ、こんにちは……」
「お、おう。 ……ってお前ッ!! なんて格好してんだ!!」


家から気恥ずかしそうに出てきたナマエは白いワンピースを来ていたが、足が太ももまで出ていて。いつもこんな格好していない彼女の姿にドキドキしつつも、驚いてしまい慌てて遠ざかれば怪訝な顔をされてしまった。


「……なんて格好って。 せっかくおしゃれしたのに」


いつものくせでついしてしまったオレの態度に、今度は悲しい表情を浮かばせるナマエ。おしゃれしたってオレのために? そう聞いた瞬間、なんだか今まで感じたことのないような感覚に襲われる。胸がキュッとしたかと思えば、オレのためにおしゃれしたと聞いてふわふわした感じになってくる。これが恋ってやつなのか。

しかし、オレが嬉しくなってもナマエは悲しそうな表情のまま。目のやり場に困るが、やっと誘ったデートを壊したくはなかったオレは慌てて「悪かった」と謝る。それを聞いたナマエはすぐにいつもの笑顔に戻った。


「……で、どこ行くんですか?」
「プッチとかどうだ?」
「"美食の町"ですね! 最近行ってなかったんですよね!」


駅に向かいながらも、オレが昨日ずっと考えて考えて思い付いた行き先を言うと喜んで承諾してくれた。好きなやつに喜んでもらえるのは、こんなに嬉しいものなのか。初めての感覚で自然とオレまで笑顔になっていた。

そして駅につき、久しぶりに海列車に乗り込む。海列車はあの時以来か。と余計な事を考えてしまい慌ててそれを振り消す。ボックス席に向い合わせで座れば、ナマエも海列車は久しぶりなのか、窓を嬉しそうに眺めていて、そんな彼女をオレは見惚れていた。





*   *






「んー!! プッチ久しぶり!」


海列車から降りたナマエは体を解すように上へと体を伸ばしていて。そんなナマエを見ながらも気がつけばオレは葉巻を手に持っていた。いつもの癖でつい持っちまった。でも今くらいは我慢するか。と服へと葉巻を戻していれば、前で体を伸ばしていたナマエが「行きましょう!」と振り返り、オレ達は街中へと、肩を並べながら向かった。


「どこ行きます? どこ行きます?」
「行きたいところねぇのか?」


街中へと来れば、ナマエは久しぶりだからなのか歩きながら周囲をキョロキョロと見回していて。とても危なっかしくて、目が離せない。そのうち誰かにぶつかるぞ。そんな気持ちと裏腹に、楽しそうなナマエを見て顔が綻ぶ。


「あッ!!」


はしゃいでいるナマエを見ていれば、彼女は何かを見つけたのか笑顔になり、急に走っていってしまう。慌ててナマエを追いかければ、その先にフランキー一家のザンバイ達がいた。会いたくないやつらにあっちまった。ってか、ナマエはこいつらとも知り合いなのかよ。

ナマエの交友関係がわかり、さっきまで楽しい気分だったのが、今はなんだかイライラして仕方ねぇ。そんなオレの気も知らず、ナマエはザンバイ達に笑顔で駆け寄る。


「ザンバイさんッ!!」
「ナマエ! どうしたん……あれ、パウリーさんまで」
「プッチに遊びに来たんです!」


笑顔で話すナマエの隣で立ち止まり、ザンバイ達はオレ達を交互に見て、ニヤリと笑った。その笑みはなんだかオレからしたら気分の良いものではなくて。さっさとここからナマエを連れて立ち去りたくなった。


「デートか?」
「まぁ、えっと……その」


ニヤニヤしているザンバイ達に言われ、俯き耳まで真っ赤になるナマエ。昨日も誘ったときにこうやって真っ赤になってたな。ナマエの様子を見ていて、ある一つの仮説がオレの中で生まれる。 ……まさか、こいつ。いや、でも勘違いかもしれねぇ。


「ナマエちょっと来い」
「え?」


赤くなっているナマエの腕を掴んだザンバイはオレから少し離れた位置で何やらこそこそ話している。何を話しているんだ。ザンバイのやつ、ナマエに変なこと言うなよ。と心配しながらも見ていれば、ナマエの表情は笑顔になったり、苦笑いになったりところころ変わっていて。

すげぇ、気になる。というか、ナマエはオレとデートしてること忘れて何でザンバイとこそこそ話してんだ。二人の様子にイライラしていれば、ナマエはザンバイから解放され、オレのところへニコニコしながら戻ってきた。その笑顔を見ただけで、イライラが消えていくのがわかる。オレ、単純過ぎだろ。と自分に呆れつつ、そんなナマエの笑顔につられるように微笑んでしまう。


「パウリーさん、行きましょう!」
「あ、あぁ…………ッ!!」


歩み寄ってきたナマエにドキドキしつつも、オレも歩きだそうとすれば、突然ナマエはオレの手を握ってきて。心臓が飛び出しそうなくらい跳ね上がり、顔が熱くなってくる。そしてオレの手を引きながら、歩き出したナマエ。

急に手を握ってきて、無意識か? それともわざとか?それにこいつが風邪を引いたときも手を握ってたが、やっぱり小さくて柔らかくて、か弱そうな手。女ってのは皆そうなのか?


「あの雑貨屋行きたいです!! ……パウリーさん?」


そんな事を考えながらも、細い彼女の腕を見ていれば、ナマエはオレの名前を呼びながらピタリと足を止めた。しかし、すぐに答えなかったオレが気になったのか、振り向いたナマエは赤くなっているであろうオレの顔を見て、小首を傾げたかと思えば手をチラッと見るなり顔を真っ赤にして手を離した。どうやら無意識だったようだ。


「ご、ごごごごごめんなさい!!」
「い、いや……」


これがきっかけで、この後お互いうまく喋れず早めにウォーターセブンへ帰ることになってしまった。