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《ニジ》C家プリン双子妹

「ねぇ、ニジ様!」
「……」
「無視しないでくださいよ!」


サンジの挙式騒動があったあと、こいつはあの騒ぎに紛れてジェルマに潜り込んでいた。しかしもう出航していて、今さらあそこには戻ることも出来ず、おれ達は仕方なく、しばらくここに置くことにしたんだが。こいつはおれに一目惚れしたとかで、しつこく付きまとってきやがる。サンジの婚約相手だったプリンの双子の妹ってだけあって、確かに良い女だが、無駄に明るい性格が勘にさわる。


「自分の家に帰れ」
「嫌です! ニジ様の近くにいたいんです」
「付いてくんな」


いくらおれが突っぱねても、懲りず毎日毎日と。顔は良いからと、後でオモチャにでもしようかと思ったがいい加減ウザくなってきた。

そんな事を考えながら、歩いていれば談話室に到着し、中へと入る。

いつもなら、ここで一人でゆっくりと甘いもんを好きなだけ食べるのに。今日はこいつも付いてきたせいでイラついてくる。


「私も食べたいです! ニジ様一緒に食べましょ?」
「うるせぇ、出ていけ」
「そんな事言わないでください!」


"出ていけ"と言われても、出ていかない女。でも今はとにかく甘いもんが食べたくて、テーブルに目を向けたのに、お菓子はひとつもなかった。いつもなら、いろんな種類のチョコのお菓子がたくさんあるのに。しかし、コーヒーだけは用意されている。


「おい、何で用意してねぇんだよ」
「も、申し訳ございません! 今、準備していますので!!」


コーヒーを淹れていた召使いに言えば、肩を震わせながらも頭を下げている。その光景を見て更にイライラしてきたおれは召使いに歩み寄り、胸ぐらを掴む。

──女のせいでイライラしてるってのに、この召使い使えねぇな。


「も、申し訳ありません! 厨房でトラブルがありまして……」
「そんな事、おれには関係ねぇんだよ」
「っ……」


胸ぐらを掴みなが、睨み付ければ召使いは涙ぐみ、目をぎゅっとつぶっている。もしかして、蹴られるのを覚悟してんのか。そう思い、足で使えない召使いを蹴り飛ばそうと少し足を上げたとき。


「ちょっとお待ちください!」
「あ?」


召使いの胸ぐらを掴んでいる手を握ってきた女。邪魔されまたイラつきながら、睨めば女は召使いに目を向けていて。


「ねぇ、あなた。 今は厨房使えるんでしょ?」
「は、はい……」
「チョコレートはある?」
「多分、あるかと思います」


召使いの言葉を聞いた女は、笑顔を見せ、今度はおれを見て微笑んだ。


「ニジ様! 私が満足するチョコのお菓子を作ります!」
「お前が?」
「はい、一応プリンと同じチョコのエキスパートですから!」


こいつがここに来てから、見たとこがない自信に満ちた笑顔を見て、おれは自然と召使いから手を離していた。そして、女に「満足するもんじゃなけりゃ、海に落とすぞ」と言えば、また笑みを見せ、部屋を出ていった。





女がお菓子を作ると言い出して、部屋を出ていってから数十分程経ったとき。談話室で仕方なくコーヒーを飲みながら寛いでいれば、ガチャと扉が開いて、女が入ってくる。その後に続くように、先程の使えない召使いがワゴンを押しながらお菓子を運んできていて。その時、ふわっと甘い香りが鼻を通り抜けた。


「遅ェ」
「でも、きっと満足されると思いますよ」


自信満々で言う女を見てから、目の前に置かれた数々のチョコのお菓子。それは見た目が普通のチョコだったりクランチだったり。おれは最初に目の前に置かれた一口サイズのチョコを手に取り、口に入れる。口の中で少しずつ溶け、甘さが広がっていき、徐々に別の味もしてきて。いつも食べているチョコのはずなのに、いつもよりも美味しく感じた。

──何だこれ。いつも食べてるチョコじゃねぇみてェだ。


「このチョコレートはいつもシェフがニジ様に作っているチョコと同じものを使っていますよ」
「じゃあ何でこんなに違うんだ」
「ただのチョコでもテンパリングという工程の中での微妙な温度調節で滑らかになったりと違いが出るんです」
「へぇ」


そんな事を言われてもよくわからねぇが、とにかくこれは正直美味い。口の中のチョコが無くなれば、すぐに次のチョコに手が伸びて頬張る。そして気がつけば、この女なかなかやるな、なんてそんな事を考えてしまっていた。


「どうですか?」
「悪くねェ」
「良かったぁ」


ただ、正直に"美味い"だなんて言うのは癪で、感想を濁すように言ったのに。女はホッとしたのか、また今まで見せなかった穏やかな表情で微笑んだ。

その顔を見て、おれは一瞬だけ見とれてしまったものの、すぐにお菓子に目を向け、また1つ取って口に頬張る。

最初は付きまとわれたりしてウザかったが、こういうのも悪くねぇかも。

気がつけば、そんな事を考えていた。