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《堕天使》七夕

今日は七夕というらしい。織姫様と彦星様が年に一度だけ会える日。その話を読んだとき、愛している人と年に一度しか会えないなんて私なら悲しくて寂しくて耐えられないだろうと感じた。

そんな話を読んだ後、私はイチジ様の部屋のバルコニーに出て夜空を眺めれば、天の川と星空が広がっていた。


「イチジ様、あれが天の川です」
「お前が言っていたのはこれか」


バルコニーで夜空を見上げれば、隣には腕を組ながら私と同じく夜空を見上げているイチジ様。そんな彼に寄り添うように私は口を開いた。


「はい。 引き裂かれた二人は、年に一度だけしか会えないらしいです」
「年に一度? 会いたいなら会えばいい話だろ」
「いえ、どんな事をしても会えないんです」
「もし引き裂かれたならお前はどうする」
「私、ですか」


夜空を見つめたまま言ってくる彼の言葉に、俯き、そんな状況を想像してしまう。年に一度しかイチジ様に会えなくなる、ただ想像しただけなのに、胸がぎゅっと締め付けられているように苦しくなる。そんなのは絶対に嫌だ。

でも、私は。


「……抗う事なく、受け入れ、毎日泣いてしまうかもしれません」
「受け入れるのか?」
「はい、私は抗う勇気すらありませんから……」
「……」


"なぜ、受け入れるんだ"と言われているようで、語尾になるにつれ声が小さくなってしまう。

そして私の言葉に黙ったイチジ様に目を向けてみれば、口を閉ざし、夜空を眺めたまま。何を考えているのか、はたまた"七夕"に興味が失せて何も思っていないのか。もしかしてやっぱり私の答えが気にくわなかったかな。そんな事を考えていれば、イチジ様は組んでいた腕を解いて、体を私に向けてくる。


「きゃっ!」


私の方を向いてきたイチジ様は、腕を私の腰に回したかと思えば、勢いよく自分の方へと寄せてきて。突然の事で驚けば、もう片方の手で私の顎を掴み、上を向かせたことでサングラスをしていないイチジ様と目線が重なった。抱きしめられ、サングラスをしていない顔で見つめられるのはもう慣れたはずなのに、今日はいつも以上にバクバクと鼓動が早まり、全身が熱くなってくる。


「あ、の……」
「おれなら、自分の決めた道に進む。 たとえ運命に抗うことになってもな」
「んっ、ぅ!」


イチジ様はニヤリと自信たっぷりな笑みを浮かべながら優しいキスをしてきてくれた事が嬉しくて、私はそれに答えるように彼の背に手を回す。

きっと無理やり引き裂かれる運命だとしても、イチジ様ならそんな事はいとも簡単に覆してしまうような気がした。