19
イチジ様と思いが通じ合い、私は変わらずレイジュ様の召し使いをしながらも密かに交際をし、幸せな日々を送っていた。特にニジ様達に絡まれる事なく、私は使用人という立場だがとても満足していた。
しかしそんな平和な日常はある日、ジャッジ様に呼ばれたことで打ち砕かれる事になった。
突然ジャッジ様にレイジュ様と共に私も呼ばれ、部屋へと向かう。何故、私まで呼ばれたのか不思議に思いつつ前にいるレイジュ様を見るも、何故私が呼ばれたのか特に気にしている様子がない。
特に気にしていないのか、それとも呼ばれた理由がわかっているのか。
そんな事を考えながらも、私が扉を開け入れば、そこにはジャッジ様に向かい合うように立っているイチジ様達もいた。
「来たか」
シンッと静まり返っている部屋でジャッジ様の言葉を聞きながら、レイジュ様の後を追うように歩き出す。特に振り向く事はない三人だが、私の目線はイチジ様に向いてしまう。毎晩、今まで通り部屋で会っているものの、やはり姿を見るだけで嬉しくて、ドキドキしてきてしまう。しかし今はジャッジ様がいるわけで、私は身を引き締めた。
腕を組むイチジ様の隣にはポケットに手を入れているニジ様。そして、ニジ様の隣にいるヨンジ様の隣へと立ち止まるレイジュ様の隣の一歩後ろで私は立ち止まった。
「ナマエ」
「ッ、はい!」
呼び出した全員が揃ったところでジャッジ様は突然私の名前を呼んできて、そのせいで驚き、肩が震える。ただ、ジャッジ様に呼ばれただけなのに、悪いことをしたわけではないのに、急にバクバクと鼓動が早まっていった。
「記憶は戻ったか?」
「!! ……いえ」
「記憶?」
「何の話だ?」
急にそんな事を言われ、戸惑いながらも返事をするも記憶喪失だと知らないイチジ様達は困惑している。何故私が記憶喪失だって事を隠していたのか、何故今になって言ったのか。考えがわからず、混乱しながら黄金に輝く仮面をつけたジャッジ様を見つめる。
「海に浮いていて、助けられた事は知っているだろ?」
「レイジュから聞いた」
ジャッジ様の説明に少しつまらなそうに答えるニジ様。まぁ、自分に逆らってきた使用人の事はもう興味すらないだろう。
「目を覚ました時、自分の名前以外の事は全て覚えていなかった」
そういえばそうだったっけ。ジャッジ様の言葉で目が覚めた時の事を思い出した。正直、あの時は何もわからなくて不安で怖かったけど、いつの間にか自分が記憶喪失だってことすら忘れていた。ついさっきまで。
「お父様、その事を何故今になって彼らに?」
私と同じ疑問を持っていたレイジュ様。ジャッジ様は確かにあの日、誰にも言うなと口止めしてきた。やはり何かあったのか、もしかして私の事がわかったんだろうか。まだジャッジ様から聞いた訳ではないが、そんな予感がして、また先程とは違う緊張感が出てきて、鼓動が早まる。
「素性がわかった」
『!!』
全員がその言葉に反応する。とはいっても、イチジ様達は少しばかり体を反応させただけ。一番大きく反応したのは恐らく私だろう。
「ナマエの顔を見たときから何処かで見たことあると思っていた」
「……」
「……調べたら、ある国の王女だった」
「……は!?」
「こいつが!?」
ジャッジ様の言葉で、頭の中が真っ白になる。
一体どんな内容が出てくるのかと思えば"王女"という驚きの単語で、言葉を失うもニジ様とヨンジ様は声をあげながら私を見てくる。
……まさか、私が一国の王女? 嘘でしょ。
そして自分の正体が"王女"だと言うことを聞かされ、困惑していた時だった。隣にいたレイジュ様からは「やっぱり」と小さな声で囁いた言葉が聞こえてきた気がして。…………え、やっぱりって。
しかし確認したくとも、はっきり聞こえたわけではないし、今はジャッジ様が話している最中だ。余計なことは言えない。
「父上、……嘘だろ」
「事実だ。 それ故、ナマエは今から王女としてここに滞在してもらう」
今日から王女として滞在しろ、だなんて。記憶も戻っていないのに、王女としての振る舞い方なんてさっぱりわからない。
「近いうち、ナマエの国にコンタクトを取る予定だ。 一国の王女を使用人になど出来んだろう」
確かに王女を知らなかったとはいえ、使用人にしていれば何か言われるだろう。だからって急すぎるし、それに記憶喪失だったと話せば、わかってくれるんじゃないのか。
「わかったか、ナマエ」
「……はい」
しかし、そんな私の意見なんて言えるはずもなく。私は使用人だったせいか、ジャッジ様に逆らうなんて事は出来なく、頷くしかなかった。
* *
ジャッジ様から自分の正体を言われたものの、記憶が全く戻っていないせいか実感が全然無い。そしてまだ頭の中が整理つかないまま、私は部屋へと戻った。混乱している時は何かしていたいのだけど、王女として滞在しなければいけないため、私はレイジュ様の使用人を外されてしまい、今までの仕事が出来なくなってしまった。勿論、すぐに他の使用人や、兵士達にも話が行き渡った。
そして私が一人、部屋のソファに座っている時だった。
コンッコンッとノック音がして、少し驚きながらも「はい」と返事をすれば「私よ」というレイジュ様の声が扉越しに聞こえてきて。私は慌ててソファから立ち上がり扉を開けた。
「レイジュ様!」
「あら、貴女も王女なんだから、その呼び方はやめなさい」
慌てた様子が表情に出ていたのか、微笑みながらも言ってくるレイジュ様。しかし、そんな事を言われても今までの癖というのもあるし、恩人だから。
と、戸惑っているとレイジュ様は部屋へと入ってきて。手には何やら白い服を抱えていた。
「はいこれ」
「あの、これは……」
「服よ」
突然手渡された服。受け取り、広げてみればそれは上品な白のワンピースだった。生地も上質のものなのか、触り心地もいい。
「王女が使用人の服着てるなんておかしいわよ」
「!」
レイジュ様の目線を追うように自分の服を見返せばそれは朝に着た使用人の服。確かに王女が使用人の服を着ているのはおかしいかもしれないけど、でもやっぱり王女という実感が沸かない。
「じゃあ、この服に着替えたら私の部屋に来てちょうだい」
「え、あの……レイジュ様!」
そして服を渡してきたレイジュ様は、私にそう言い残し背を向けて部屋を出ていってしまった。
(2018/03/29)
しかしそんな平和な日常はある日、ジャッジ様に呼ばれたことで打ち砕かれる事になった。
突然ジャッジ様にレイジュ様と共に私も呼ばれ、部屋へと向かう。何故、私まで呼ばれたのか不思議に思いつつ前にいるレイジュ様を見るも、何故私が呼ばれたのか特に気にしている様子がない。
特に気にしていないのか、それとも呼ばれた理由がわかっているのか。
そんな事を考えながらも、私が扉を開け入れば、そこにはジャッジ様に向かい合うように立っているイチジ様達もいた。
「来たか」
シンッと静まり返っている部屋でジャッジ様の言葉を聞きながら、レイジュ様の後を追うように歩き出す。特に振り向く事はない三人だが、私の目線はイチジ様に向いてしまう。毎晩、今まで通り部屋で会っているものの、やはり姿を見るだけで嬉しくて、ドキドキしてきてしまう。しかし今はジャッジ様がいるわけで、私は身を引き締めた。
腕を組むイチジ様の隣にはポケットに手を入れているニジ様。そして、ニジ様の隣にいるヨンジ様の隣へと立ち止まるレイジュ様の隣の一歩後ろで私は立ち止まった。
「ナマエ」
「ッ、はい!」
呼び出した全員が揃ったところでジャッジ様は突然私の名前を呼んできて、そのせいで驚き、肩が震える。ただ、ジャッジ様に呼ばれただけなのに、悪いことをしたわけではないのに、急にバクバクと鼓動が早まっていった。
「記憶は戻ったか?」
「!! ……いえ」
「記憶?」
「何の話だ?」
急にそんな事を言われ、戸惑いながらも返事をするも記憶喪失だと知らないイチジ様達は困惑している。何故私が記憶喪失だって事を隠していたのか、何故今になって言ったのか。考えがわからず、混乱しながら黄金に輝く仮面をつけたジャッジ様を見つめる。
「海に浮いていて、助けられた事は知っているだろ?」
「レイジュから聞いた」
ジャッジ様の説明に少しつまらなそうに答えるニジ様。まぁ、自分に逆らってきた使用人の事はもう興味すらないだろう。
「目を覚ました時、自分の名前以外の事は全て覚えていなかった」
そういえばそうだったっけ。ジャッジ様の言葉で目が覚めた時の事を思い出した。正直、あの時は何もわからなくて不安で怖かったけど、いつの間にか自分が記憶喪失だってことすら忘れていた。ついさっきまで。
「お父様、その事を何故今になって彼らに?」
私と同じ疑問を持っていたレイジュ様。ジャッジ様は確かにあの日、誰にも言うなと口止めしてきた。やはり何かあったのか、もしかして私の事がわかったんだろうか。まだジャッジ様から聞いた訳ではないが、そんな予感がして、また先程とは違う緊張感が出てきて、鼓動が早まる。
「素性がわかった」
『!!』
全員がその言葉に反応する。とはいっても、イチジ様達は少しばかり体を反応させただけ。一番大きく反応したのは恐らく私だろう。
「ナマエの顔を見たときから何処かで見たことあると思っていた」
「……」
「……調べたら、ある国の王女だった」
「……は!?」
「こいつが!?」
ジャッジ様の言葉で、頭の中が真っ白になる。
一体どんな内容が出てくるのかと思えば"王女"という驚きの単語で、言葉を失うもニジ様とヨンジ様は声をあげながら私を見てくる。
……まさか、私が一国の王女? 嘘でしょ。
そして自分の正体が"王女"だと言うことを聞かされ、困惑していた時だった。隣にいたレイジュ様からは「やっぱり」と小さな声で囁いた言葉が聞こえてきた気がして。…………え、やっぱりって。
しかし確認したくとも、はっきり聞こえたわけではないし、今はジャッジ様が話している最中だ。余計なことは言えない。
「父上、……嘘だろ」
「事実だ。 それ故、ナマエは今から王女としてここに滞在してもらう」
今日から王女として滞在しろ、だなんて。記憶も戻っていないのに、王女としての振る舞い方なんてさっぱりわからない。
「近いうち、ナマエの国にコンタクトを取る予定だ。 一国の王女を使用人になど出来んだろう」
確かに王女を知らなかったとはいえ、使用人にしていれば何か言われるだろう。だからって急すぎるし、それに記憶喪失だったと話せば、わかってくれるんじゃないのか。
「わかったか、ナマエ」
「……はい」
しかし、そんな私の意見なんて言えるはずもなく。私は使用人だったせいか、ジャッジ様に逆らうなんて事は出来なく、頷くしかなかった。
ジャッジ様から自分の正体を言われたものの、記憶が全く戻っていないせいか実感が全然無い。そしてまだ頭の中が整理つかないまま、私は部屋へと戻った。混乱している時は何かしていたいのだけど、王女として滞在しなければいけないため、私はレイジュ様の使用人を外されてしまい、今までの仕事が出来なくなってしまった。勿論、すぐに他の使用人や、兵士達にも話が行き渡った。
そして私が一人、部屋のソファに座っている時だった。
コンッコンッとノック音がして、少し驚きながらも「はい」と返事をすれば「私よ」というレイジュ様の声が扉越しに聞こえてきて。私は慌ててソファから立ち上がり扉を開けた。
「レイジュ様!」
「あら、貴女も王女なんだから、その呼び方はやめなさい」
慌てた様子が表情に出ていたのか、微笑みながらも言ってくるレイジュ様。しかし、そんな事を言われても今までの癖というのもあるし、恩人だから。
と、戸惑っているとレイジュ様は部屋へと入ってきて。手には何やら白い服を抱えていた。
「はいこれ」
「あの、これは……」
「服よ」
突然手渡された服。受け取り、広げてみればそれは上品な白のワンピースだった。生地も上質のものなのか、触り心地もいい。
「王女が使用人の服着てるなんておかしいわよ」
「!」
レイジュ様の目線を追うように自分の服を見返せばそれは朝に着た使用人の服。確かに王女が使用人の服を着ているのはおかしいかもしれないけど、でもやっぱり王女という実感が沸かない。
「じゃあ、この服に着替えたら私の部屋に来てちょうだい」
「え、あの……レイジュ様!」
そして服を渡してきたレイジュ様は、私にそう言い残し背を向けて部屋を出ていってしまった。
(2018/03/29)