『はッ、はッ…!』
「コラ!待ちやがれ!!」
(逃げてんのに待てって言われて待つ馬鹿なんて居ないってのー!)
何でプラズマ団に追われなきゃなんないのよ…!ポケモンの解放?一体何言ってんの、アイツ等…!せっかく仲良くなった大切なパートナーを手放せなんて言われても手放せるわけないじゃない!
というか、私…プラズマ団なんかに目を付けられるなんて、ホント運悪過ぎ…。
君 を 護 る た め に
「あの小娘、一体何処に逃げやがったんだ…?!」
取り敢えず、此処に隠れていれば大丈夫そうね…。
走り続けていた為、体力の限界が近付いていた。このまま走り続ければ途中で体力が尽きてしまい、プラズマ団に捕まってしまう。
それだけは絶対に回避しなければならなかった為、ヤグルマの森へ逃げ込み、茂みへと一旦身を隠す事にした。
『はぁ…ッ、アイツ等…もう行ったかしら…?』
身を隠してから暫くして茂みの中から少しだけ顔を出すとプラズマ団が遠ざかったかどうかを確認するナマエ。何度か辺りを見回してみたがプラズマ団の姿は見受けられなかった。
『良かった、何とか助かったみたいね…』
私は大切なパートナーが入ったモンスターボールをギュッと握り締めながら、大切なパートナーをプラズマ団に盗られなかった事にホッと胸を撫で下ろした。
…―――ガサガサッ
『・・・ッ!?』
突如、背後から草木が揺れる音がした。
…――まさか、プラズマ団!?もう見つかってしまったのだろうか…?それとも最初から居場所がバレてた…!?
だけど、此処でジッとしていても大切なポケモンを盗られてしまうだけ。ナマエはモンスターボールを握り締めたまま、意を決して背後を振り返った。
『こ、この子は絶対に渡さないから!』
「…ヤナ?」
『へ…?』
背後を振り返ると、そこに居たのは草猿ポケモンのヤナップだった。近くにはトレーナーらしき人物の姿は見受けられない。…――という事は野生のヤナップなのだろうか…?どちらにせよ、背後に居たのがプラズマ団ではなく、ヤナップで良かった。
『お前、一人なの?』
「ヤーナッ」
どうせ野生なのだから一匹で居る事に違いないだろうと思いつつもヤナップに問い掛けてみた。…が、ヤナップはトウコの問い掛けに首を横に振り否定した。
『え、一人じゃないの…?』
「ナップ!」
今度は首を縦に振り肯定するヤナップ。しかし、周辺を再度見渡してみるがトレーナーらしき人物や他のポケモンの姿は見受けられない。
一体どういう事なのだろう、と頭を捻らせていると何処からか声が聴こえてきた。
「ヤナップ、何か見つけたのかい?」
ガサガサと草木を掻き分けながら、此方へと近付いてくる一人の人物。声からして男性には違いないだろう。
「ヤナッ!」
「あれ…?ヤナップ、その女性は…?」
「ヤナヤナッ!」
茂みから現れたのは緑色の髪をしたウェイター姿の男性だった。何でウェイターがヤグルマの森に居るんだろうか…?
兎にも角にも、このウェイターがヤナップの主人には違いなさそうだ。
『あの、貴方は…?』
「僕はデント。それから、こっちは僕のパートナーのヤナップだよ」
「ヤナァ」
ヤナップはデントと名乗る人物から自身を紹介されると、礼儀正しく私に向けて頭を下げて挨拶をしてきた。
「君の名前は?」
『私はナマエって言います…』
「ナマエさん…、素敵な名前だね」
『あ、有難う…』
デントさんの言葉に思わず赤面してしまった。今までに自分の名前を告げて"素敵"なんて褒め言葉、言われた事がなかったから…。
「それにしても、こんな暗い森の中に女性一人で居るのは危険だと思うけど?」
『あ、いや、その…』
「何か事情があっての事だと思うけど、森の中に女性一人はやっぱり危険だから森の外まで僕が送るよ」
『で、でも…』
「あ、僕の事なら心配いらないよ。此処には紅茶に使うハーブを摘みに来ただけだからね」
デントは一方的に話を進め、ナマエの手を取ると芝生に座り込んでいたナマエを立ち上がらせた。
『あの、デントさん…!』
「ん?」
『あの、その…わ、たし…』
どうしよう…、正直に"プラズマ団に追われてました"なんて言えない。もし言ったとして、デントさんを巻き込んでしまったら…。
「大丈夫、心配する事ないよ」
きっと、デントさんはプラズマ団が近くに居る事を知らない…。だとしたら、尚更迷惑なんて掛けるわけにはいかない…。
『私、未だ森に用があるので…』
「用って?」
『それは、その…』
咄嗟に"用がある"なんて言ってしまったけど、先の言い訳が思い浮かばない…。
『えっと…』
ヤバイ、本当に言い訳が浮かばない…!この際、本当の事を言うしか――…
「見つけたぞ、小娘!!」
『・・・ッ!?』
う、嘘…アイツ等、未だ此処に居たの…?!どうしよう…、このままじゃデントさんのポケモンまで…!
『プ、プラズマ団――…!』
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