あれから数時間後、溜まりに溜まっていた事務処理が漸く終わり、私を待ってくれていたノボリさんと一緒にノボリさんの自宅へ向かった。

ノボリさんのお家に行くのはいつ振りだろうか。何度かお邪魔した事はあるけれど、やっぱり恋人の部屋というの物は少なからずドキドキしてしまう。



『ノボリさんのお家にお邪魔するの久しぶりだから、ちょっと緊張しちゃうなぁ』



職場内ではなるべく敬語を使うようにしているナマエ。弟のクダリ以外は二人が付き合っている事を知らない為、知られない様にというのも理由のひとつだが、ノボリはナマエの上司に当たる。一番の理由はそれだ。今はこうして二人きり、プライベートな時間の時は普段通りだ。



「緊張なんてなさらず、気楽にしていて構いませんよ」

『そういえば、クダリさんは?』

「今日は夜勤と聞いております」

『もしかしてノボリさん、今日はクダリさんが居ないから最初から誘う気だったんじゃ?』



チラリと横目でノボリを見遣るナマエ。



「バレてしまいましたか、」

『もー、ノボリさんってば。私の休みもしっかりチェックしてたし』

「最近、二人とも忙しかったですからね。二人の時間も取れませんでしたし、どんな理由でも良かったのでナマエと一緒に過ごしたかったのですよ」



ぽふ、とノボリの大きな掌がナマエの頭を優しい覆う。ナマエは嬉しそうに、そして少しだけ照れ臭そうにしながら目を細めた。

暫く歩いた後、二人はノボリの住む自宅に到着した。ノボリがカードキーを通し部屋のロックを解除する。玄関の扉が開かれれば、ふわりと漂ってくるノボリの香り。全身をノボリに包み込まれているような感覚だ。



『へへ、ノボリさんの良い香りがする。何だかノボリさんにギューッてして貰ってるみたい』



すんすん、と部屋の香りを嗅ぎながらナマエは『お邪魔しまーす』と言いながら脱いだ靴を揃える。



「あまり、煽らないで下さいまし。我慢が出来なくなってしまいます」

『煽ってなんかないですよ?』

「…ナマエの方がとても良い香りがします」



ノボリは玄関の扉を閉めるとナマエの手を引き、そのまま抱き締めた。



『ノ、ノボリさん!?』

「ほら、こんなにも甘い香りが」

『ノボリさん、此処玄関だから…お部屋入りませんか…?」

「申し訳ありません、ナマエを抱き締めたら我慢が出来なくなってしまいました。…このままベッドに向かっても宜しいでしょうか」

『え、いや、何言って…――ッキャ!』



ノボリはナマエの返事など鼻から聞くつもりはなく、軽々とナマエを抱き上げればそのまま寝室へと向かう。
バタバタと足をバタつかせるナマエの抵抗には御構いなしの様子。ナマエは問答無用でベッドに縫い付けられてしまった。





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