『・・・ッ、』
ケフカに強制的に眠らされていたナマエ。数時間後、漸く目を覚ました。
『こ、此処は…』
「やっと起きましたか。此処はぼくちんの寝室ですよ」
『師匠…ッ、戦は…!』
ナマエは全てを思い出したように横たわっていた身体を起こす。まだ魔法の効果が完全に切れていない所為か、身体が少し重い様子。
「まだ続いてるよ」
『な、ならば…!』
行かなければ、と焦って寝台から降りようとするナマエをケフカは直ぐに静止した。
「ナマエ、」
『し、師匠…』
「今回はナマエの失敗です」
『し、っぱい…』
「お前の放った魔法は味方の一部を巻き込んだ。当然、レオも知っている」
ケフカの言葉に目を泳がせるナマエ。
「別に良いんだけどね、味方を巻き込もうが、ぼくちんには関係ない。ただ、あの時も言った通り、後の始末が面倒なのよ。それはナマエ自身がよく分かってると思うけどぉ?」
ナマエは脱力し寝台にストンと腰を下ろした。自分のしてしまった事が全て無駄だった。
『師匠、私…』
「ナマエ、何があったんです?」
『最初は師匠に認めて貰いたくて、そしたら…途中からどうでもよくなってきて、こんな戦争早く終わってしまえば良いと…そう思っていたら敵とか味方とか関係なく…ッ』
行き場のない視線。ナマエは瞳に涙を溜めながら、あの時の感情をケフカに伝えた。
だが、家族の事を思い出した事は言えなかった。
「そういう事ですか」
『ご、ごめんなさい…』
「別に怒っちゃいませんよ。狂ったナマエの姿は聊かそそられるモノを感じたけどね。だ・け・ど、あの時のナマエはぼくちんの為じゃなかったから」
『・・・ッ、』
…――その通りだ。あの時の私は師匠の為なんて気持ちを途中から忘れてしまっていた。簡単に命を奪ってしまう戦争が許せなかった。…そうだ、私は今でも家族を失ってしまった気持ちを忘れられないでいるんだ。だから、あんな風に…。
「ぼくちんは壊す事が大好きです。味方だろうが敵だろうが、皆殺しにしてやっても良いと常にそう思っていますからねぇ。ですがナマエ、アナタだけは何が何でも守らなければならない」
『師匠…?』
「お前だけは失いたくないからね」
ケフカはそう言葉にすると寝台に座り込んでいたナマエの手を引き立ち上がらせると、そのままナマエの身体を抱き締めた。
『し、しょ…!』
「ケフカ、」
『え…?』
「これからは師匠ではなくケフカと呼びなさい」
『ケフカ、様…?』
ナマエは恐る恐るケフカの名を口にする。
「…ま、様付けでも良いでしょう」
『何だか、不思議な気分です。師匠の名前なんて呼んだ事ないから…』
「そうでしたねぇ。ではこれから数え切れない程、呼んで下さい」
ナマエはケフカの胸元にある頭を頷かせた。抱き締められた事は何度もあるけれど、比べ物にならないくらい心が安らいだ。このまま時が止まってしまえばいいのに、と思えるくらい。
「ナマエはワタシの傍に居れば良い」
『ですが、』
「ワタシはナマエを育ててきましたが、こんな事の為ではい」
『・・・?』
「いつかワタシがこの世界を…」
ケフカは途中まで言葉を紡ぐとナマエに向けてニンマリを笑みを向けた。
「戯言はこの辺にしてナマエは暫く身体を休めなさい」
『師匠…じゃなかった、ケフカ様は?』
「始末書」
始末書、という言葉に青ざめるナマエ。他でもない原因はナマエだからだ。
『し、始末書は私が!』
「一応、ナマエは直属の部下だからね。責任はぼくちんに、く・る・の」
ケフカは言葉を強調するように紡ぐ。
『も、申し訳ありません。将軍には後日にでも直接お詫びして来ます…』
ただ、ケフカ様のお役に立ちたかっただけなのに…私的な感情の所為で迷惑を掛けた上に、仕事を増やしてしまった。
ナマエはやってしまった、と今更ながら両手で顔を覆い隠した。
『本当、すみません…』
「良いですよ、次は無いですがね」
『はい…』
「今回はナマエに怪我が無かったので許してあげますよ。先の伴侶に掠り傷ひとつあっては困りますからねぇ」
『・・・、今何て言いました?』
もしかしなくても"伴侶"と、そう聞こえた。
「ナマエも嫌じゃないでしょう?ぼくちんが相手でも」
ちょっと何言ってるか分からなかった。伴侶だとか相手だとか、一体この人は何を言ってるんだろう。
「とりあえず、ゆっくりしていなさい」
ケフカはそう言い残すとナマエを残し寝室を後にした。
『え、ケフカ様…!』
師 と 私 と 、
(…――私が師匠の、ケフカ様の…?いやいや、きっと冗談に決まってる…)
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