『此処が…』
数日前に窓から眺めていた戦地。ナマエは周囲を見渡すと息を飲んだ。今までに感じた事のない感情に手元が微かに震える。
「震えていますねぇ」
『だ、大丈夫です』
ケフカに指摘され、掌をギュッと握り締め震えを抑えるナマエ。
「ナマエ、あそこが見えますか。今、あの場所でレオ達が交戦しています。ナマエはその支援に、…大丈夫、何も考えずに目の前の敵を壊す事だけ考えてれば良い」
『は…い、』
師 と 私 と 、
壊すだけ、壊すだけ。私は師匠に言われた通り、壊す事だけを考えながらレオ将軍達の部隊が居る後方に就いた。
辺りを見渡せば、魔導アーマーが支援に当たっている。ナマエはケフカの様に空中に浮くスキルを身に付けて居ない為、少しでも見渡せるように高い位置へと移動した。
「ナマエ、殺りなさい」
そう言葉にする師匠の表情は楽しそうだった。私は一度だけ深呼吸をすると、敵陣の方向へ両手を翳した。
『…――ファイガ!』
ナマエから放たれたファイガは燃え上がる轟音と共に瞬く間に敵軍の一部を一掃する。ナマエは魔力の流れに意識を集中すると容赦なくスキルを次から次へと繰り出していく。
そんなナマエを宙に浮きながら眺めていたケフカ。ケフカはクックッと喉を鳴らしている。
「流石、ぼくちんの弟子だ。凄まじい威力ですねぇ、惚れ惚れしますよ。ただ、あまり遣り過ぎると味方を巻き込んじゃうよ。別にぼくちんはそれでも構わないけどね。でも後でうるさーいのが来るからさ」
私は無我夢中で壊す事だけに集中した。あれだけ拒んでいた行為を、私が、私の手で…――そう考えていると、どうにでも良くなってきて…。このまま続ければレオ将軍の部隊を巻き込んでしまうかもしれない。もしかすると、もう巻き込んでいるかもしれない。頭の中では分かっているのに、止まらない。こんな戦、早く終わってしまえば良いのに。
…――脳裏に浮かんだ。あの時の光景が。私を守って血だらけになった姿の父と母、そして兄。これまで感じた事のない感情が何処からともなく込み上げてきた。精神が飲み込まれそうになる。
『…れ、てしまえ』
小さな声で呟くナマエ。その言葉はケフカにも良く聞き取れなかった。
妙な気分だ、とケフカは思った。先程までは自分の為にと威勢を張っていたのに今はそれが感じられない。ケフカは眉を顰めた。
「ナマエ?」
『…――全部、壊れてしまえ!』
普段聞く事のないナマエの叫び声。その声と同時に敵陣には燃え滾る隕石が次々と降り注ぐ。
突然の叫び声に何かがおかしいと悟ったケフカはナマエの背後に近寄り、振り翳されていた腕を掴んだ。
「ナマエ、落ち着きなさい」
『離して下さい!こんな戦争、纏めて私が…ッ』
ケフカの静止を受ける事なく、寧ろ反抗的な態度を取るナマエ。そんなナマエにケフカは苛立ちつつスリプルを唱えた。
『…ッ、師、しょ…』
「おやすみ、ナマエ」
(ダメ…意識、が――…)
ナマエは呪文を受けるとケフカに凭れ掛かるように眠り込んだ。ケフカはナマエの身体を支え抱き抱えると、戦地を後にした。
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