窓の外を確認すると遠くではあるが土煙が上がっているのが分かる。そこにケフカも居る。何故、共に同じ土が踏めないのだろう。ナマエは拳をギュッと握り締めた。
『師匠の隣で、師匠の事を守っていたいのに…』
心配する事はない、それは分かっている。師匠はとてもお強い人だ。師匠に敗北なんて絶対に有り得ないし、師匠にとってそんな言葉さえ存在しない。
師 と 私 と 、
ナマエは、これまでに様々な修行を積んできた。初めて使った魔法が回復魔法であった事から、回復魔法を重点的に学んできた。大半は使いこなせる。ただ、ケフカにも言われた通り、使える場面が無いに等しい。ケフカに使う状況にはなって欲しくはないが、これでは学んだ意味がない。
『私が人を…』
有り得ない、自ら人を傷付けるなんて。
『…ケフカ師匠、いつになったら貴方のお役に立てるのでしょうか』
土煙が上がる方角を見つめながらナマエは呟いた。
*****
ケフカが交戦地に出向いてから十日が過ぎようとしていた。そろそろ戻って来る頃だ。
…――暫くすると、部屋の扉がガチャリと開く音が室内に響く。
「戻りましたよ、ナマエ」
『師匠、お帰りなさい。大丈夫でしたか?』
「大丈夫ですよ。擦り傷ひとつありません」
分かってはいた事だけれど、ケフカの言葉にナマエは安堵した。
「心配でしたか?」
『当たり前です、いつだって心配してます』
「ナマエは優しい子ですねぇ」
そう言いながら、ケフカはナマエの頭を優しく撫でた。
『私は師匠に救って頂きました。ご恩は一生忘れませんし、ずっとお傍に居たいです』
「ナマエは強い。自分で思ってる以上の魔力を秘めているんです。ワタシはそれを最初から見抜いていましたよン。だから、今此処に居るんです」
『師匠、私はどうすれば良いのですか。どうすれば、師匠の隣を歩く事が出来ますか?』
ナマエは頭の上に乗っていたケフカの手を取ると、胸元でギュッと握り締めた。
「ナマエ、」
『はい…』
「ワタシはナマエの師ではありますが、異性でもあります。これがどう意味か、分かる?」
『異性…』
ケフカはナマエから視線を外すと先程まで滞在していた交戦地の方角に視線を移した。
「ずっと一緒に居ましたからねぇ。心が壊れてると言えども、ナマエは大切なぼくちんの弟子ですから。それに、たったひとりの愛しい女性です。幾らぼくちんが強いからと言って危険な場所には連れては行けません」
『師、匠…』
私の聞き間違いだろうか。愛しい、と…そう聞こえた。自信はないけれど。
「まァ、せっかく強いのにそれを生かせないのは可哀想だとは思うけどねぇ」
『…遣ります、』
「およ?」
『師匠の為なら何でもします。だから次の交戦には必ずお供させて下さい』
決意は固いと、ケフカはナマエの目を見て悟れば、やれやれと溜め息混じりに呟く。
「全く、話を聞いていたのか…ま、良いでしょう。その代わり、慈悲はお捨てなさい。葬り去る相手に慈悲なんてモノは要らないからねぇ」
『は、い…』
ケフカは帰還したばかりだが最近の戦況からすると、また近い内に必ずケフカが呼び出されるはずだ。
「さーて、ぼくちん疲れちゃったから一休みでもしようかな」
『横になられますか?』
「そうだねぇ、そうしましょうか」
ケフカはウンウンと首を縦に振ると、すぐ傍に設けられていたソファーにゴロンと転がり込んだ。
「楽しみにしていますよ」
そう呟いてから、ケフカは目を閉じた。
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