…あれは、もういつの日の事になるか。まだ私が子供の頃に初めて出会った人造魔導士、ケフカ・パラッツォ。
―――――……
―――……
―…
戦争。それは極めて非情である。父と母、そして兄も、戦争という身勝手な戦いに巻き込まれて命を落とした。
幸い、私だけは助かった。帝国軍の攻撃から愛していた家族が私の命を守ってくれたのだ。その時私は、動かなくってしまった家族を前にして泣く事も悲しむ事も出来なかった。怒りという感情が強かったからだ。
どうして私だけを置いて逝ってしまったのか、これからひとりでどうしていけば良いのか。どうせなら、私も一緒に連れて逝ってくれれば良かったのに。そんな事を考えながら、瓦礫のど真ん中で途方に暮れていた。
『ッ、痛い…』
家族が守ってくれたとはいえ戦争だ。無傷で助かる事の方が珍しい。ナマエの右足に痛みが走る。
『血…、』
足首からは血が滲み出ていた。ズキズキと痛む右足を眺め、ナマエは手を翳すと前に本で読んだ事のある呪文を唱えた。
『…ケ、アル』
ナマエの掌から放たれる優しく淡く暖かな光。ゆっくりではあるが、傷が徐々に塞がっていくのが分かる。ナマエは今まで魔法なんて使った事はなかった。
『…魔法、使えた。どうして…』
使ったみたは良いものの、何故使えたのか、どうして使ってみよう等と思ったのかはナマエ自身にも分からなかった。
「お嬢ちゃん、」
塞がった傷口を眺めていると、背後から声がした。ナマエはゆっくりと背後を振り返る。
『…誰?』
「イイモノを見せて貰いました」
『いい、もの…?』
背後に居たのは派手な格好をした肌の白い男。
「お嬢ちゃん、魔法が使えるんですねぇ」
『ま、ほう…』
「おや、その様子では魔法の事をよく知らないんですか?」
『知ってる、けど…初めて使ったから、』
ナマエは自身の手を見つめた。
「ふぅん。ならば、きちんと使えるように学ばなければなりませんねぇ」
『学ぶ…?』
「ええ、学ぶんです。魔法をね」
『…おじさん、』
「ぼくちんまだ若いですよ。誰がおじさんですか」
『どうしたら、学べるの…』
ナマエの問いにケフカはニヤリと口角を吊り上げた。
「ワタシと共に来なさい」
『おじさん、と…』
「だからおじさんじゃないって。全く…ところでお嬢ちゃん、オナマエは?」
『…ナマエ、』
「ナマエ、ですか。ワタシの名はケフカ・パラッツォ。これからは私がナマエの師となって差し上げます」
ケフカはナマエに手を差し伸べた。
『ケフカ、師匠…』
そう言葉にしたナマエは差し伸べられたケフカの手をゆっくりと掴んだ。
―――――……
―――……
―…
「…ナマエ?」
『へ…、』
「どうしました?ボーッとして、ブッサイクな顔になってましたよン」
『あ、いえ…昔の事を、師匠に初めて出会った時の事を思い出してしまって』
ずっとずっと昔の事をナマエは思い出していた。懐かしいな、と心の中で呟く。
「昔と言っても数年前でしょう」
『そうですね、十年も経ちませんし。ところで何か御用でしたか?』
「いいえ、特には」
『そうですか。昔の師匠はもうちょっと格好良かったですよ、なんて』
「ハイハイ、今も昔もぼくちんは変わりませんよー」
変わらないと言いつつも、少し不貞腐れたのか、ケフカは唇を少しだけ尖らせていた。
師 と 私 と 、
(…――これが私と師匠であるケフカとの出会い)
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