『んーッ、良く寝た』



ナマエは、むくりと寝台から起き上がり伸びをした。暫く雨が続いており、今朝は久々の晴れ模様。カーテンの隙間から差し込む朝日だけでも眩しく感じてしまう。



『久々の非番だし、天気も良いし、掃除でもしたらのんびりするかな』



ここ数日、仕事が忙しかった為に中々休みを取らせて貰えなかったナマエ。ナマエは帝国軍に属する魔導士の人形、…――否、一般的に呼ぶ雑用係である。



『…――にしても、最近の導士様はご機嫌斜めで人使いがいつもより荒かったからなぁ。この間も戦地で暴れ狂ってたとか聞いたし』



そう言葉にするナマエは顔を洗ってから着替えを済まし、先程まで包まっていた布団を畳み始める。



昨日までは本当に忙しくて、何が忙しかったかっていうと導士様がサボって全然書類に目を通さなくて、どんどん溜まっていって…。最終的には「ぼくちん、疲れたから寝るー」とか言って放棄するし。何もしてないくせに何が疲れてるってんだ!お陰でレオ将軍には私が怒られるし…。



『もー、ほんっと有り得ない!』



…――シャッとカーテンを開けながら、自分の部屋だからと声を荒げるナマエ。言葉にしないとストレスが溜まる性格のようだ。





「休みの日までぼくちんの事、考えてくれてるの?それは光栄ですねぇ」





カーテンを開けた先に現れたのは、愚痴の矛先である人物、…――ケフカだ。ケフカは、ナマエの部屋の窓の前でふわふわと宙に浮いている。



『…え、』



突如、目の前に現れた人物に目を点にするナマエ。愚痴という愚痴は口にまで出してはいなかったのが幸いだが、ケフカの事を口にしていたのは事実である。



『ど、導士様…』

「おはよー、ナマエちゃん」

『お、おおお、おはようございま、す…』



え、今日は非番のはずで…、何で導士様が窓の外に…!ていうか何でわざわざ!?



ケフカは未だ開いていない窓を魔法でいとも簡単に開けてしまうと、「よっこいしょ」なんて言いながら平気で入り込んで来た。



「ぼくちんが何だって?」

『え!あ、いや!導士様がご機嫌斜めだったなぁ…なんて、』

「それで?」

『そ、それでって…いや、何かあったのかなぁ、と…』

「別にナマエちゃんに教える必要ないでしょ」

『いや、まぁ、そうなんですけど…』



先程、畳んだ布団の上にボスッと音を立てながら腰を下ろすケフカに内心戸惑うナマエ。



『あ、あの導士様…』

「それ」

『え?どれですか?』



ケフカは人差し指をピシッと立ててはナマエに向けた。



「その導士様って呼び方やめてくれませんかねぇ」

『え、でも…』

「ワタシにはケフカ・パラッツォという、ちゃーんとした名前があるんですよ」

『そ、それは存じておりますが…』

「じゃあ練習〜、呼んでみなさい」



ナマエは普段からケフカを名前で呼ばず、必ず導士様と呼んでいた。それが気に入らなかったのか、ケフカは自分の名前を呼ぶよう促した。



『ケ、ケフカ、様…』

「もっと大きな声で」

『…――ケッ、ケフカ様!』



ギュッと目を閉じて腹から声を出すナマエ。ケフカは自分の名を呼ばれた事に満足の様で、にんまりとした表情に変わった。



「ちゃんと呼べるじゃありませんか」

『そ、それは道士様がお呼びしろと――…ッ!』



ナマエはハッとした表情で口元を押さえては、また道士様と呼んでしまった事に対してブンブンと首を横に振る。



「次にぼくちんの事を道士なんて呼び方したら、壊しちゃうよ」

『よ、呼びません!絶対呼びませんから!』



ヤバイ、この人怒らせたら命がいくつあっても足りない…!



「ま、いいでしょ。ところでこの後のご予定は?」

『予定という予定はないですが、掃除をしたらゆっくりしようかと・・・』

「ふーん」



すると、返事を聞いたケフカが指を左右上下に動かしている。同時に少し散らかっていた室内が整頓されていく。



『え…!』



気付けば、掃除をする必要がないまでに綺麗になっていた。



「これでよろしいですか?」

『ケフカ様、何で…』

「掃除、終わりましたよ。これで今日はフリーですね」

『いや、そういう事じゃなくて!』

「ぼくちんに言う事は?」

『・・・、ありがとうございます』



突然部屋に来て、突然部屋の掃除をされて、少々頭の整理が付かないナマエ。そもそもこの人は一体何をしに来たのかが疑問だ。



「せっかくのお休みですからねぇ、天気も良いですし、せっかくなのでナマエと過ごそうかと思いましてね」

『え、毎日会ってるじゃないですか!』

「何か言った?」

『うぐ、』



自分の返した言葉に対して鋭い視線を送るケフカに、ナマエは口を閉ざす。



「ナマエはぼくちんのお気に入りですからね。さ、行きますよン」

『行くって何処へ…!』

「ぼくちん、お腹ペコペコだからぁ」

『朝、ごはんですか…?』

「そゆこと〜」



ケフカはナマエの手を引き、朝食を摂るべく部屋を後にした。






い つ だ っ て






「あー、お腹いっぱい。ナマエも早くお食べなさい。今日はまだまだ此れからですよ」

『お腹いっぱいって!好きな物しか食べてないじゃないですか!』

「当たり前でしょう。ぼくちん嫌いなものは食べませーん。ほら、早く食べちゃって」



ナマエはケフカに催促され、急いでフォークを口に運んだ。ずっと見られているプレッシャーは半端なく辛い。



『ご、ご馳走様でした』

「ハーイ、じゃあ行きますよ」

『次は何処へ?』

「ん?ぼくちんの部屋でのんびり過ごすに決まってるでしょン」

『・・・、』





(…――それって、のんびりって事以外いつもと変わらないじゃん!)



…と、突っ込みたい気持ちを抑え、唇を噛みしめたナマエだった。






(常にナマエと一緒に居たいんですよ、)





--END--

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