『デント、デント!』
「ん?どうしたんだい、ナマエ」
『じゃーん!コーンに教えて貰ってチーズスフレ作ってみたんだー』
閉店した店内を清掃中、パタパタと小走りで僕のもとへと駆け寄ってくるナマエ。両手には小皿が握られていた。
「コーンに?」
『うん!何度か失敗しちゃって沢山怒られちゃったけど…』
「失敗は成功の鍵だし、気にすることはないよ」
『見た目は綺麗に見えるんだけど、問題は味なんだよねー。まだ味見してないから美味しくなかったらゴメンね…』
「それじゃ、一度手を洗ってくるよ。それから二人でお茶にしよう」
『うん!』
デントは掃除道具を専用棚に仕舞うと、手洗い場で丁寧に手を洗い、キッチンへと向かった。
せっかくナマエが僕の為に作ってくれたんだ。だから、美味しい紅茶と一緒に味わって食べたい。
『デントー、私が紅茶淹れようか?』
僕が紅茶の準備をしていると先程までホールに居たナマエがキッチンへと顔を覗かせた。
「もう淹れ終わるから平気だよ」
『そう?…あ、ヤナップも一緒に食べるかな?』
「んー、まずは僕が食べてからにしない?」
『そ、そうだよね…もし食べて美味しくなかったらヤナップ可哀想だもんね…』
……違うよ、ナマエ。そうじゃなくて、僕が一番に食べたいからだよ。そのチーズスフレは僕に為に作ってくれた物なんだから。
本当だったら、ヤナップにも食べさせたくないんだ。ナマエが僕の為に作ってくれた物は全部僕が食べてしまいたい。
「一生懸命作ってくれたんだよね?」
『う、うん…』
「じゃあ、美味しいに決まってるよ」
『食べてみないと分かんないよー…』
「食べなくても分かるよ」
デントは準備した紅茶をトレイに乗せ、テーブルに運ぶとナマエの目の前にティーカップをそっと置き、ゆっくりと紅茶を注ぐ。次第に紅茶の良い香りが漂ってきた。
『良い香りー…』
「それじゃ、頂こうかな」
『…ちゃんと美味しく出来てますように!』
祈るようなポーズで僕を見つめるナマエ。…そんなに見つめられると逆に食べ辛いんだけどなぁ…。
ナマエから送られる視線が気になりつつも、チーズスフレをフォークで突き口へ運ぶと手作りの味を確かめた。
どちらかと言えば甘さは控えめで、ほんのりとレモンの香りが広がり、食感もフワフワとしていた。……うん、凄く美味しい。
『ど、どう…?』
「流石だね」
『…美味しいってこと?』
「うん、ナマエも食べてごらん」
ナマエの口許にフォークを近付け、ナマエの口が小さく開けばスフレを口内へと運んだ。
「どうだい?」
『…お、美味しい…』
意外だったのだろうか、ナマエの表情は驚きに満ちていた。まさか、此処まで美味しく仕上がるとは思っていなかったのだろう。
「あ…、ナマエ」
『ほぇ?』
気付けば、デントの顔が目の前にあってドキッと胸が高鳴る。それと同時にデントの柔らかい舌先が私の唇をペロリと這った。
「口許にスフレが付いてた」
『…ッ!』
……だからって、舐め取らなくても…。
私は口許を押さえながら顔を真っ赤に染め、デントから視線を外した。恥ずかしくて堪ったもんじゃない。
「これ全部、僕が食べても良いかな?」
『え…?』
「ヤナップに食べさせてあげたいのは山々なんだけど…ね?」
『デ、ント…』
言葉に表さなくても、ナマエなら分かってくれるよね。きっと、ナマエが僕の立場なら同じ事をしていたんじゃないかな。……なんて、僕の勝手な憶測だけどね。
と び き り の 甘 さ
「ご馳走様!
」
『お粗末様でした』
「ねぇ、ナマエ」
『ん?なぁに?』
「スフレ、凄く美味しかったけど…、今度はもう少し甘いモノが食べたいな」
デントはナマエの腕を掴むとグイッと自身へ引き寄せた。
『キャッ…!……デ、デント?』
「今夜、ナマエの部屋に行っても良いかな?」
『え、それって…』
「チーズスフレを作ってくれた御礼だよ」
『ば、馬鹿…』
今夜はとびきり甘い夢が見られそうだ。
--END--
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