「えーっと、救急箱何処だろー?」
傷の手当てを、とクダリに手を引かれ別室へ連れて行かれたナマエ。
周囲を見渡せば、クダリの物と思われる衣類等が脱ぎ散らかされていた。つまり、連れて来られた部屋はクダリの部屋だという事だ。
ナマエは"ノボリの部屋ならば、もっと綺麗で片付けてあるに違いない"と心の片隅で呟いた。
全 て の 原 因 は 、
「あー!救急箱見っけ!」
"ガタガタ"と小さな物音を立てながら、クダリは棚の上に置かれていた救急箱を取り出し、クダリの寝台を背凭れに床へ座るナマエのもとへ戻った。
『ゴ、ゴメンね…?わざわざ手当てなんて…』
「謝るのはダメだよ?ちゃーんと手当てしないと治りが遅くなっちゃうから」
『う、うん…』
「ほら!手、出して?」
手を出すように、とクダリに促されれば素直に手を差し出すナマエ。傷口が浅かった為か、既に血は止まっていた。
「消毒するから滲みちゃうかもだけど、我慢してね」
『ん、大丈夫だよ…?』
クダリは「痛いの痛いの飛んでけー」なんて幼い子供をあやすような言葉を掛けながら、指の傷口に消毒液を染み込ませた綿を"ちょんちょん"と当てた。
だが、一番痛いのは消毒の時なのだ。「痛いの痛いの飛んでけー」等と言ってはいるが、どちらかというと痛め付けてるのはクダリとも思える。
『…ッ、』
「大丈夫?もうちょっとだから、我慢我慢!」
『んッ…へい、き…』
平気、なんて簡単に言ってるけど、本当は消毒液が傷口に滲みて物凄く痛い。でも、クダリ君の言う通り此処は我慢しないと。
それにしても、クダリ君…結構慣れた手付きで手当てするんだなぁ…。不器用な感じがするけど、実際は器用だったり…?
…なんて、傷口から走る痛みに耐えながら、色々と想像していると、いつの間にか傷の手当が終わっていた。負傷した指先には絆創膏が貼られている。
『あ、有難う…』
「ううん!ボクこそゴメンね…?怪我させちゃって…」
『もう良いよ、気にしてないから』
「アリガト!そうだ、手当てが終わったことノボリに報告してくるね!…あ、それと…お風呂どうする?怪我してるけど入れる?」
『うん、平気だよ。せっかくクダリ君が沸かしてくれたんだから、入らないと悪いし…』
「分かった!じゃあ、先にお風呂入っておいでよ?ちゃーんとノボリにも伝えておくから」
『私が先に入っちゃっても良いの…?』
「勿論!一番風呂は気持ちイイし、ナマエが先に入っておいで!」
『…分かった、それじゃあ、先に入らせて貰うね?』
ナマエの返事に、クダリは普段以上にニンマリと口許を緩めては「お風呂は部屋を出て、廊下の奥の右側だから!あ、着替えも後で持って行くね!」と言い残し、部屋を出て行ってしまった。
残されたナマエも風呂場に向かうべく、手当てして貰った指先を反対の手で軽く押さえながらクダリの部屋を後にした。
*****
「ノボリ、ノボリー!」
夕飯の支度を終えたノボリがリビングのソファーで小説を読みながら寛いでいると"ドタドタ"と足音を響かせながら、リビングにクダリが戻って来た。
「クダリ、廊下は走らないで下さいまし」
「ごめんなさい!ノボリに報告!ナマエの手当て終わったよ!」
「ほう、そうですか。…ですが、ナマエさんの姿が見当たりませんよ?」
手当てが終わった、と報告しに来たクダリの隣には最愛であるナマエの姿は見当たらない。一体何処なのか、と問い掛けるとクダリは廊下側に向かって指を差した。
「ナマエ、ボクの部屋で本読んでるんだ!」
「…本、ですか?」
「うん。お風呂入ったらって言ったんだけど、ノボリの後に入るって言って聞かないんだ」
「そうですか…」
「だから、ノボリが先に入ってきなよ?」
「…ふむ、」
クダリの提案に、ノボリは口許に指先を当て暫し考え込んだ。
「…分かりました。では、先に入る事にしましょう」
「うん、そうして!」
「嗚呼、そうだ。夕飯の支度は出来ていますが、三人が揃うまで摘み食いは許しませんよ」
「わ、分かってるよ…!」
クダリの反応に、ノボリは心の中で「よし…」と呟くと、クダリをリビングに残し風呂場へ向かった。
(…ーー気の所為でしょうか…、クダリの表情がいつもと違うような気が……否、私の勘違いでしょうね…)
先程のクダリに、少しだけ違和感を感じつつ風呂場へ向かうノボリの背に向けて、クダリは今日一番の笑みを浮かべていた。
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