あの後、私とデントは真っ直ぐジムへ向かった。ヤナップも疲れ切っていた為、デントの判断でモンスターボールに戻された。
ポケモンセンターからサンヨウジムまでは殆ど離れてはなく、直ぐの距離だ。
ジムに帰る途中、デントは一切言葉に口に出さなかった。ただただ、静かな沈黙が続くばかり。その沈黙をどうにかしようと話を切り出してみたが「うん…」とか「そうだね」という返事しか返ってこなかった。
会話が続かないまま、ジムに到着してしまったのだ。…たった一人で、勝手に街の外に出てヤナップを探しに行った事、やっぱり怒っているのかな…?
『あの、さ……デント、もしかして怒ってる…?』
「…別に、怒ってなんかいないよ」
恐る恐る尋ねてみるも、返って来る返事は普段より低めの声で「別に」から始まる一言。やっぱり怒ってるんだ…。
『そ、か…』
ジムの中に入ると、コーンとポッドが店の後片付けをしていた。手伝おうかと思ったけど、今の私にそんな気力は残っていなかった。それはデントも同じ事だと思う。
私はコーンとポッドに一言謝り、先に部屋で休ませて貰う事にした。デントは手伝うと言い張っていたが、コーンに「結構です」なんて言われて手伝わせて貰えなかったみたい。言い方を変えれば、手伝わさせないのもコーンの優しさなのだ。
『じゃあ…私もう寝るね…?デントもゆっくり休んで…』
「………」
(…ーー嗚呼、やっぱり無言か…。何だか寂しいな…)
デントの部屋と私の部屋は隣同士で、手前がデントの部屋だった。デントの部屋を通り過ぎる時、一応声は掛けてみたものの返事はなし。広い廊下には私の声だけが虚しく響き渡っていた。
『…ッ、おやすみ…!』
…ーーーバタンッ
私はその場の空気に耐えられず、逃げ込むように部屋に入った。荒々しく扉を閉め、その扉に背を預けたまま暫く俯いていた。
何が悲しいかって…、デントが返事をしてくれない事もあれば、私の事を一切見ようとしなかった事…。胸が締め付けられるようだった…。
『…デ、ント…ッ』
…ーーーガチャッ
突然、扉が開きバランスを崩すナマエ。しかし、バランスを崩し倒れこんだ先は床等ではなく、デントの腕の中だった。
『…ッ…デ、ント…?』
苦しいくらいに抱き締めてくるデントの腕。気のせいだろうか…、抱き締めてくるデントの腕が少しだけ震えているような気がした。
「ゴメン、ナマエ…」
『え…?』
「怖かったんだ…」
「怖かった」というデントの言葉に私は理解が出来なかった。何が怖いというのだろうか…?寧ろ怖かったのは私の方だ…。
『怖かった、って…?』
「…ヤナップが突然居なくなって…、ナマエはナマエで居なくなったヤナップを一人で探しに行くし…」
『デント…?』
(…デントの声、震えてる…)
「ヤナップとナマエ、二人同時に失ってしまうのかと思った…」
『え…』
「一人になる事が怖かったんじゃない…。大切な二人を失う事が怖かったんだ…」
抱き締めるデントの腕の力が、先程より一層強さを増した。
…――そうか、デントは怒ってるわけじゃなかったんだ…。私とヤナップが無事に戻ってきて安心していただけなんだ…。
『…私の方こそ、ゴメンね…』
「ナマエ…」
『勝手に街を出て、デントに心配掛けちゃって…』
「…良いんだ。よく考えてみれば、二人が無事に戻って来てくれて良かったって思うよ…」
デントは震える声で言葉を紡ぎながら、何処か安心しきったような、そんな優しい笑顔を私に向けてきた。
ヤナップも私も、助けたい何かがあった為に一番大切な人の存在を忘れてしまっていたんだ…。
Serendipity
…―――後日
「ポルルッ!」
『わわッ!マメパト、擽ったいよ〜』
ジョーイさんの御陰で無事に怪我も治ったマメパトは、私の大切なパートナーとして今こうして此処に居る。
初めは野生に戻してあげようかと思ってたんだけど、マメパトは私達のもとから離れようとしなかった。それにヤナップも寂しそうにしていた。
私もマメパトには少しだけ思い入れがあった。だから、デントが言っていた事を思い出し、マメパトをゲットする事にしたのだ。
「ヤナヤナッ!」
『嬉しそうね、ヤナップ』
「ナーップ!」
「おーい、皆ー!昼食の準備が出来たよ」
『はーい!』
「ヤナーッ!」
「ポルルッ!」
…――新たな仲間も増え、サンヨウジムは今日も賑やかです。
--END--
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