「…――つまり、ヤナップはマメパトを助ける為に、わざわざシッポウシティより未だ先のヤグルマの森に行ったってこと?また随分遠出したね…」
『うん…、私も初めは吃驚したよ…』
「全く、心配掛けさせるなよ…」
「ヤ、ナ…」
デントに心配を掛けてしまった事に至極落ち込んでいる様子のヤナップ。そんなヤナップの小さな肩にデントはそっと手を置いた。
「マメパト、助かると良いな…」
「ナップ…」
二人の様子にナマエは思わず顔を綻ばせた。
(何というか…、二人とも似た者同士って感じだなぁ…)
Serendipity
あれから、どのくらい時間が経っただろうか…。時計を見ると指針がかなり進んでいるのが分かる。
デントの膝の上ではヤナップが"スヤスヤ"と寝息を立てていた。遠出をした為か余程疲れてしまったのだろう。気持ち良さそうに熟睡中だ。
"むにゃむにゃ…"と時折口元を動かしながら深い眠りに就くヤナップの姿を眺めていると、治療室からジョーイさんの姿が現れた。
治療室から出て来たジョーイはナマエとデントのもとへ真っ直ぐ歩み寄った。
「ナマエちゃん、デント君」
『ジョーイさん…!』
「ナ、ナップ!?」
ナマエの声に今まで寝ていたヤナップが目を覚ました。ヤナップは何事かと少しだけ驚いた表情を浮かべている。
ジョーイの姿が視界に入るとナマエとヤナップは軽く小走りでジョーイのもとに駆け寄った。その後ろからデントも遅れて駆け付ける。
「ジョーイさん、マメパトの容態はどうですか?」
『だ、大丈夫ですよね…?』
「ヤナヤナァ…」
マメパトの容態が気になるのか、三人はジョーイに詰め寄るように問い掛ける。そんな三人にジョーイはニコリと優しい微笑みを向けた。
「マメパトは大丈夫ですよ。ただ翼の怪我が完治するのに少し時間は掛かると思うけど、安静にしていれば治りも早いはずよ」
『ホ、ホントですかッ!?』
「ええ、本当よ」
『良かったー!マメパト、助かったんだって!良かったね、ヤナップ!』
「ナップナップ!」
ジョーイの説明を受けたナマエは、嬉しさの余り、足元に居たヤナップを抱き上げ"ぎゅむッ"と力強く抱き締めた。
「でも、ナマエちゃん…?」
『はい、何ですか?ジョーイさん…』
「マメパトの怪我が治ったら、野生に返すの?」
『あ…、そういえば…』
…――そうだ、マメパトは野生のポケモンなんだ。私のポケモンでも、デントのポケモンでもない…。
『野生に返すしか、ないですよね…』
「ヤナァ…」
ナマエの言葉を傍で聞いていたヤナップが微かに寂しそうな声を上げた。
『もしかして、ヤナップ…寂しいの?』
「…ナップ」
『でも、マメパトは私達のポケモンじゃないから…』
「ヤナ…」
寂しいのは私だって同じ…。単に怪我をしているところを助けてあげただけだとしても、一度は関わりが在ったことには変わりないのだから。
「それなら、ナマエがゲットすれば良いんじゃないかな?」
『え…?』
デントの意外な提案にナマエは思わず"キョトン"とした表情を浮かべた。
「マメパトはナマエとヤナップの御陰で助かったんだから、話をすればナマエのポケモンになってくれると思うよ」
確かにデントの言う事も分かるけど、ただ助けてあげただけで私達の仲間になってくれるのかな…?
「断られた時は仕方がないけど、僕の予想では断らないと思うな」
『そうかな…』
「取り敢えず、今はマメパトの快復を待とう」
『うん…』
「ジョーイさん、マメパトが快復する頃にまた伺います」
「はい、分かりました。後の事は任せて下さい」
「お願いします。それじゃ、僕達は帰りますね」
ヤナップはナマエの腕の中に、ナマエはデントに肩を抱かれながらポケモンセンターを後にした。
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