『今年も残り一時間かぁ…あっという間だったね…』
「そうだね、本当にあっという間だったよ」
『デントは遣り残した事とかないの?』



ナマエの質問に「何かあったかなぁ…」と頭を捻るデント。数秒程考えると「あ…」と声を漏らしナマエへと向き直った。



「ひとつだけ」
『…遣り残した事あるの?』
「うん、本当にひとつだけね」
『え、何々?気になるんですけど』



デントの言う"ひとつだけ"遣り残した事が気になって仕方ない様子のナマエ。そんなナマエに向かって、デントは柔らかな笑みを浮かべるとジワジワを顔を近付けた。



『え、ちょ…デント?』
「…知りたい?」
『そりゃ…知りたいけど…!』



(でも、何でこんなに顔が近いの…!?近過ぎるよ…!どうしよう、顔が熱い…ッ!)



「なら、教えてあげるよ」



そう言って、デントは既にギリギリまで近付いている顔を更に近付けてきた。その所為、ナマエの顔も噴火寸前の勢いだった。



(…ッ、デントの顔が…!鼻が当たってるよォオ!)











…―――ガチャッ








デントとナマエの顔がギリギリに近付くなか、突如部屋と扉が開く音が室内に響く。






「…何、しているんですか…?」

『…コ、コーン!』

「また、タイミング良く現れたね…」







部屋に訪れたのはコーンだった。

デントとナマエの怪しげな雰囲気の場に偶々居合わせてしまったコーンは少し困惑している様子。しかし、直ぐに状況を察知したのかズカズカと早足で部屋に入って来た。



「デント、抜け駆けは許しませんよ?」
『わわッ…!』



部屋に入って来たかと思えば、今度はデントから引き離すようにナマエの腕を引き"ギュッ"とナマエを抱き締めるコーン。ナマエは一体何が起こっているのか分からない様子。



『ちょっと、コーン…!?』
「何です?」
『"何です?"じゃなくて!は、離して…!』



嫌がるナマエを他所にコーンは「嫌です」ときっぱり否定しては、抱き締める腕の力を強めた。流石のナマエも少しだけ苦しそうな表情を浮かべている。



「コーン、離してあげなよ。嫌がってるじゃないか」
「コーンはデントからナマエを救って差し上げただけですが?」
「…僕を何だと思ってるんだ…」



(どうでも良いから早く離してーッ!)














…―――バァンッ!









『…!?』

「また誰か来たよ…、もう誰かは特定出来るけど…」




今度は思い切り扉を開ける音が室内に響く。大きな音にナマエはコーンに抱かれたまま"ビクッ"と肩を跳ねさせた。






「何だよ、皆して!俺だけ除け者なんて許さねーぞ!…って、あれ…?何してんだ?お前等…」






慌しく部屋を訪れたのはポッドだった。…というより、来るならポッドしか居ない。

部屋を訪れたものの、勢い良く扉を開いた後の光景はナマエがコーンに抱き締められているという、目を疑う光景だった。




『いや、あの…!これは…!』
「酷いよね、コーンって…ナマエを襲おうとしたんだよ」
「何言ってるんですか、本はと言えばデントが最初に抜け駆けしようとしたんでしょう。コーンはそれを止めただけです」
「抜け駆けじゃないよ。ナマエが遣り残した事ないのかって聞いてきたから…」
「だからと言って、普通あんなにギリギリまで顔を近付けますか?」



コーンとは反対に全く状況が把握出来ない様子のポッドは、デントとコーンの遣り取りに混乱するばかり。流石に我慢出来なくなったのか、俺を無視するなと言わんばかりに大声を張り上げた。




「一体何がどうなってんだよッ!?」



ポッドの大きな声は室内に"キーン…"と響き渡った。



「声が大き過ぎますよ、ポッド…」
『び、吃驚した…』
「だってよ!何でナマエがコーンに抱かれてんだよ!?」
「人の話を聞いていなかったんですか…?」
「あんなんじゃ分かんねェよ!つーか、ナマエから離れろよ!」
『うわわッ…!?』



今度はポッドがコーンから無理矢理引き剥がし、自身の腕の中へスッポリと納めてしまった。



『ちょっと!ポッドまで…!』
「ほぅ、このコーンからナマエを奪う気ですか…」
「それを言うなら僕だって同じさ」
「何言ってんだよ、ナマエは俺のモンだ!」
「いつ、誰が、何処で、そのような事を決めたんですか?」
「前から俺が決めてたんだよ!」
「ポッドって勝手だよね。そういうの本当に困るんだけど」



ポッドに抱き締められたナマエの目の前にジリジリとデントとコーンが近付いて来る。表情は物凄く黒い。



(ちょ、何この展開…!三人とも怖いよーッ!)













…―――ゴーン、ゴーン








『あ…』

「年明けましたね」

「だね」

「うわ、もうかよ…!」




ナマエを巻き込みつつ三人が揉め合っていると、時計の針が午前零時を差し、鐘の音が室内に響き渡った。年が明けてしまったのだ。




「…何と言いますか、取り敢えずは明けましておめでとう御座います」
「うん、明けましておめでとう」
「明けおめー」
『明けましておめでとう…!あと、そろそろ離して下さい!』
「やだね」
『えー!?』
「離しなさい、ポッド」
「コーンが言えた立場じゃないと思うんだけど…」
「うるさいですよ、デント」




…――嗚呼、今年も賑やかな一年になりそうだ。








そ れ ぞ れ の 想 い







『…結局、遣り残した事って何だったんですか?』
「ん?ナマエを僕のモノにする事だよ」
「同じくコーンもです」
「だから、ナマエは俺のって言ってんだろ!?」
「黙りなさい、ポッド」
「な…!」
『………』



…――訂正、今年は波乱の一年になりそうだ。






--END--

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