ひらり、またひらり。
空から真っ白な結晶が舞い降りる。


『あ、雪…』

「初雪だね」

『今日は一段と冷え込んでたから降りそうな気はしてたけど』

「去年は誰と初雪見た?」

『え?』


デントと私が付き合い始めてから冬を一緒に過ごすのは今年が初めて。去年の初雪は独り寂しく窓越しから眺めてた気がする…。


『んー、覚えてないや』

「そんなはずないよ」

『ひ、独りだった…』



去年の同じ時期、私は独りで冬を過ごしていた。その時は未だデントとも知り合っていなかった。

いつも独りだった。だから、私を見てくれて…想ってくれる人なんて居ないと思ってた。



「ナマエ…」

『でも別に寂しいとか孤独だとか、そんな風には思ってなかったから平気だったよ』



平気だなんて嘘。
本当は凄く寂しかったくせに。寂しさを感じるくらいなら死んだ方がマシだって思ってたくせに。



「ナマエは嘘が下手だね」



突然、視界が真っ暗になった。同時にトクントクンと小さな鼓動が微かに聴こえてくる。

ふわりと身体を包み込まれる感覚に心が暖かくなる感じがした。…とても暖かい。



『デ、ント…?』



視界を真っ暗にしていた胸元から顔を上げ、デントに視線を向けると彼は優しく微笑みながら私を見下ろしていた。



「寂しかったって顔に書いてあるよ」

『そんなわけないじゃん』

「でも…ほら、これ見て?」



デントの指先が目元に触れた。反射的にギュッと瞳を閉じるも「見て」と言われ、ゆっくりと瞳を開く。



『・・・ッ!』



デントの指先には一滴の透明の雫。それを見た私は自分の目に熱い何かが込み上げている事にようやく気が付いた。



「本当は凄く寂しくて誰でも良いから傍に居て欲しかった…、違うかな?」

『・・・、』

「大丈夫だよ、ナマエ。今は僕が居る。ナマエのこんなに近くに、…ね?」



デントの優しさを浴び、視界を濁らせていた雫が頬を伝う。

後悔ではないけれど…どうして、もっと早く彼に出逢う事が出来なかったんだろうって思った。もっと早く出逢っていれば、今とは全然違う気持ちだったのかな…?



『デント…』

「ん…?」

『居なくなったり…、しない?』



涙を浮かべたまま不安そうな表情でデントを見上げ、問い掛けるナマエ。その質問を受けたデントのナマエを抱き締める腕に力が篭もる。



「居なくならないよ」

『…本当?』

「うん、ずっとナマエの傍に居る」



涙で濡れたナマエの頬に掌を添え、ゆっくりを顔を近付けるデント。

冷たい外気晒されて冷たくなったナマエの唇を、少しだけ温かいデントの唇が覆う。



『ん…』



心地好くて、とても優しいキス。このまま時が止まってしまえば良いのに、と思うくらいだった。



「もう…、ナマエは独りじゃないんだ」



離れた唇から紡がれた言葉に胸がキュッと締め付けられるような感覚を覚える。

嗚呼、そっか…。もう独りじゃないんだ…。私には私を想ってくれる大切な人が今目の前に居るんだ。



「だから、もう…寂しくないよ」

『うん、寂しくない。デントが居るから寂しくない…』



きっと…今の私が在るのは過去の私が在ったから…。デントに出逢えたのも過去の私が在ったからなんだろう。

この人が居れば、もう大丈夫。どんなに心が寒くても彼が居るだけ温かくなるから。







貴 方 の 温 も り







「…そろそろ店に戻ろうか、」

『うん、帰ったらデントが作ったシチューが食べたいな』

「雪の降る夜にはピッタリだね。腕に縒りを掛けて作るよ」

『早く食べたいなー…』




(これから先もずっと貴方の傍に居させて下さい)




--END--

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