「わ、負けちゃった…!」
スーパーダブルトレイン、本日も正常運行。そして、スーパーダブルトレインのボスでもあるクダリの目の前ではバトルに敗北したオノノクスが車内で倒れている。
『やった…!ついにクダリに勝った…!』
クダリを降したのは何度もクダリに挑戦しては敗北し続けていた少女、ナマエであった。少女と言っても彼女は10代後半だ。更にクダリの恋人でもあった。
特に手を抜いたわけでもなく、普段通りバトルを楽しんでいたにも関わらず、初めてナマエに負けてしまった事に唖然としているクダリ。どうやら、スーパーダブルトレインで自分がナマエに負けるとは思っていなかったようだ。
「…えっとー」
『クダリ!』
「うん?」
『負けた時の台詞、ちゃんと言って!ほら、早く!』
「えー、言わなきゃ駄目?」
『勿論!ずっと聞きたかったんだから!』
キラキラと瞳を輝かせているナマエに、クダリは敗北後の台詞を言いたくないのか蛸のように唇の先を尖らせている。
しかし、バトルに勝利したナマエはクダリの襟元を掴み早く敗北後の台詞を言え、と強引に要求し続けている。強引な要求に漸く折れたクダリは小さく溜息を吐き、台詞を言い始めた。
「ボク、クダリ。サブウェイマスターをしてるけど、また君に負けちゃった。だけど、清々しい気分。だって、凄く面白かった!君の勝ちたい気持ち。ボクの負けたくない気持ち。どっちも本物。本物がぶつかり合うと心がワクワクするんだ!…――これで良い?」
『おおー!やっと聞けた、その台詞!』
ずっと聞きたかったクダリの台詞に感動を覚えるナマエ。そんなナマエにクダリは「あーあ…」と少し悔いている様子だ。
「ナマエには、ずっと言わないで良いと思ってたのに」
『何でよ!』
「だって、ナマエは僕より弱いって思ってたから」
『何それ、酷い!』
「でも、負けちゃった」
『勝っちゃった』
フフン、と鼻を高々と上げているナマエを見たクダリは蛸のように尖らせていた唇の先を引っ込め、普段通り"ニンマリ"と笑みを浮かべればナマエの身体をギュムッと抱き締めた。
「だけど、そのお陰でまたひとつ楽しみが増えた」
『え…!ク、クダリ…?』
突然クダリに抱き締められ、驚いた様子のナマエは慌てながらクダリの顔を見上げた。
「ボクもナマエみたいにもっともっと強くならなきゃ!」
『…良いよ、そのままで』
「良くないよー!またナマエに勝ちたい!負けたくない!」
クダリの表情は普段通り、笑顔で満ちているが、言葉の裏には何処か本気の思いが満ち溢れていた。
「ナマエ!」
『なーに?』
「今日は負けちゃったけど明日は絶対勝つからね!」
『…え、明日も来なきゃいけないの?』
「当たり前!ボク、ナマエとまたバトルしたい!」
『えー、どうしよっかなー…』
ナマエの反応に、クダリは「駄目なの?」と残念そうに首を傾げている。そんなクダリに、ナマエはクダリと同じように"ニコー"と笑みを浮かべるとクダリの両頬にパチンと手を当て両手でクダリの頬を挟み、尖った唇の先に"ちゅ、"と軽く口付けをするナマエ。
「…――ッ!ち、ちゅー、されちゃった!」
『明日も負けないから!』
幸 せ の 定 義
…――明日も明後日も、そのまた次の日も、毎日、ボクに会いに来て!
(それだけで、ボクのココロ、幸せ一杯!)
--END--
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