…――ガタン、ゴトン。

16時30分発、カナワタウン行き、普通列車。乗客は毎度の事ながら殆ど乗っておらず各車両には多くても二、三人程度だった。



(今日も普段通り、ですね…)



バトルサブウェイの業務から一旦離れ、カナワタウン行きの列車の車掌を務めるノボリ。勿論、折り返しでライモンシティへ戻れば、再びバトルサブウェイの業務に戻らなければならない。

熱いバトルが繰り広げられるバトルトレインとは違って、のんびりとした空気が流れるカナワタウン行きの列車での車掌業務はノボリにとっても休息の間とも言える。



「さて、そろそろ到着する頃ですね」



ノボリは操縦室内で腕時計を確認すると、間もなく終点であるカナワタウンに到着するのを確認し車内マイクでアナウンスを流した。



「御乗車、有難う御座います。間もなく、終点・カナワタウンに到着致します。御降りの際は御忘れ物がないよう御願い致します。尚、この列車は一旦回送列車となり、御乗車頂けませんので御注意下さい。本日はギアステーションを御利用頂き、誠に有難う御座いました」



ノボリが車内アナウンスを流すと数名の乗客達が席を立ち上がり網棚から荷物を取り出す等、列車を降りる準備をし始めた。

間もなくして列車がカナワタウンに到着すれば、数名の乗客達は大きな荷物を抱える等して列車を後にした。合わせてノボリも操縦室から出ると回送列車に変わる前に車内の見回りに向かった。



(特に忘れ物も無いようですし、問題ありませんね――…ん?)



ノボリが各車両の見回りをする限りでは忘れ物や、その他の異常等は見つからなかった。…――が、それは最終車両を除いてだった。

最終車両の最奥の席に、終点にも関わらず未だ下車していない乗客が居たのだ。ノボリが遠くの位置からその乗客に気付くと、ゆっくりと近付いた。断定は出来ないが、遠くから見る限りでは恐らく居眠りをしているのだろう。

ノボリがその乗客の元に歩み寄ると、推測通り乗客は眠っていた。眠っていたのはノボリよりも若いと思える女性、ただ一人。



「お客様、お客様。終点ですよ、起きて下さいまし」



ノボリは女性の前に移動すると、声を掛けながら軽く肩を揺すった。…が、女性客はなかなか目を覚まさない。



「困りましたねぇ…」



起こそうとしても、なかなか目を覚まさない女性客の様子に困ったように口を尖らせならが、その口元に人差し指を当てるノボリ。

此処で時間を食うと、次のライモンシティ行きの発車時間に間に合わない。どうしようかとノボリが悩んでいると、眠っていた女性が唸り声を上げた。



『ん、んぅ〜…』

「お、お客様、終点ですよ!」

『ぅ、ん…?終、点…?』

「お目覚めになられましたか?」



漸く目を覚ました女性客に、ノボリは内心安堵しながら女性客に笑みを向ける。



『…あれ、私…此処、どこ?』

「此処はカナワタウン行きの列車内ですよ」

『あ!…そうだった、私、カナワタウンの列車に乗ったんだった!…って事は此処って、もしかしなくてもカナワタウン…?』

「はい、左様で御座います」

『あぁ…すみません、居眠りなんかしちゃって…』

「いえ、とんでも御座いません」



女性客は座ったまま、ノボリに頭を下げて詫びると隣の席に置いていた荷物を肩に掛け列車から降りようとした。



「長旅、お疲れ様で御座いました。足元にお気を付け下さいまし」

『はい、有難う御座います!車掌さんもお仕事お疲れ様です!それじゃ!』



列車を降りた女性客は外のホームから此方に手を振ってホームの階段を降りて行ってしまった。



「勤務以外でお疲れ様です、なんて言われたのは久々ですね…」



女性客がホームから手を振っている時に見せた笑顔がとても印象的に思えたノボリの表情にも普段は見せない笑顔が映し出されていた。





「また、お会い出来ると良いのですが…」







笑 う 門 に は 、







…――数日後、私はカナワタウン行きの列車内で出会った女性客と再び出会う事となった。



『あの時はお世話になりました。貴方がバトルサブウェイのノボリさんだったんですね!』

「貴女はあの時の…」

『覚えていてくれて良かった。私、ナマエって言います』

「ナマエさん、ですか…宜しくお願い致します」

『此方こそ、お願いします』



あの時の女性客との再会はカナワタウン行きの列車内ではなく、シングルトレインでの再会だった。



「では、出発進行――…!」






--END--

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