…――ズキズキと痛む傷口。そんなに激しくしないで。そんなにされたら、私…もう我慢出来ない…!



『…――ッ!だぁああ!痛ぁあいッ!!』

「こ、こら…ナマエ!暴れないで下さいまし…!」

『もう無理!我慢出来ない!消毒なんてしなくて良いからぁあああッ!!イダイダイダイダイッ!!!』

「そんなに痛がる事ないでしょう、少しは我慢して下さいまし。良い大人なんですから…」



そう言いながら、ノボリはナマエが不注意で擦り剥いてしまった膝を消毒液に浸した綿で傷口を消毒した。

しかし、普段滅多に怪我等しないナマエ。その為、傷口に消毒液が沁みる痛みに慣れていないのか、ナマエはギャーギャーと喚き続けている。



『ノボリの鬼!悪魔!痛ィイッ!!』

「私は鬼でも悪魔でもありません。そもそもの原因はナマエ、貴方自身でしょう。あれだけスーパーシングルトレインには乗るなと忠告しておいたのに…」



ノボリの言葉に、傷口に沁みる消毒液の痛みに耐えながら"ぶすっ"と不貞腐れた様子のナマエ。そんなナマエに、ノボリは呆れたような視線を向けた。



「ノーマルと違ってあそこは強者ばかりが集まる列車なんです。ナマエも知っているでしょう?どうして乗ったりしたんですか…」



傷口の消毒を終えたノボリはナマエに説教するかのように言葉を紡ぎながら、救急箱から取り出した油紙とガーゼを傷口に当て、テープでしっかりと固定した。



「乗らなければ、列車内で転倒して足を怪我する事もなかったでしょうに…」

『ノボリは何も分かってないよ…』

「分かってないのはナマエでしょう。私がどれだけ心配したと思って――…え、ナマエ…?」



漸く傷口の手当を終えたノボリは視線を膝からナマエの顔の方へ上げた。しかし、顔を上げた先にはまさかのナマエの泣き顔。何故泣いているのか、さっぱり分からない様子のノボリは唯々驚くばかり。



『もう良いッ!ノボリのバカタレ!あんぽんたんッ!クダリに愚痴ってやるんだから!』

「ナマエ、一体何故泣いているのです…?」



突然、ポロポロと大粒の涙を零すナマエにノボリはどうする事も出来ず、その場で固まっていた。そんなノボリの様子に更にナマエが怒りを露にする。



『ホントに何も分かってないんだから!バカバカバーカ!ノボリのバーカッ!』

「も、申し訳ありません…」

『謝んないでよ!もう!…ッ、何で私ばっかり興奮しなきゃないんないのよぉ…』

「ナマエ…」

『ノボリの仕事が忙しい事くらい分かってる…、だけど…ノボリが傍に居てくれないと寂しいんだもん…!だから、自分から会いに行こうって思って…ッ』






…――嗚呼、私とした事がナマエに何と御詫びすれば良いのでしょう…。






ノボリはナマエの言葉に居ても立ってもいられず、目の前で泣きじゃくるナマエを思い切り抱き締めていた。



『…――ッ、ノ…ボリ…?』

「申し訳ありません、ナマエ…。寂しい思いをさせてしまっていたのですね…」



ノボリの言葉に無言のまま小さく頷くナマエ。



ナマエが頷いた瞬間、私の中で嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちが溢れそうになった。嬉しい、なんてナマエからすれば理解し難い事でしょうね。

ですが、どうしてでしょうか…?ナマエの言葉を聞いて、申し訳ない気持ちよりも嬉しい気持ちの方が大きいのです。



「…ふふ、」

『何笑って…』

「いえ、何でもありません…クス、」



嬉しさのあまり不可解にも笑い始めるノボリ。そんなノボリにナマエは『ノボリ、気持ち悪い』の一言。この一言にノボリの笑いも一瞬にして止まった。



「気持ち悪いって…」

『だって、いきなり笑い出すから』

「申し訳ありません、ただ…その、嬉しかったものですから…」

『え?何が?』



ノボリが思った通り、何が嬉しいのか分かっていない様子のナマエ。ナマエはノボリの頭が壊れてしまったんじゃないか、というような表情でノボリを見つめている。

しかし、ノボリは何が嬉しかったのかをナマエに話す事はなかった。その代わりに抱き締めていたナマエの身体を更にギューッと抱き締めた。



「何でもありませんよ」

『何それ、意味分かんない!』

「寂しい思いをさせてしまった事は本当に申し訳ありませんでした。御詫びと言うより、私の我侭に近いんですが、明日は私の傍にずっと居て貰えませんか?」

『明日?明日も仕事でしょ?どうしたら傍に居られるのよ』

「ですから、言葉の通りです。出勤から退勤まで、勿論それ以外にもずっと傍に居て欲しいと言っているのです」

『それって…』

「そういう事です」



漸くノボリの言葉の意味を理解した様子のナマエにノボリはナマエの柔らかな唇に自身の唇をそっと重ねた。



『んむ…ッ』

「今までの事…許して貰えませんか?」

『ゆ、許すに決まってる…じゃん。その代わり、もっかいキスして!』

「キスで許して貰えるなら何度だってして差し上げますよ…」







Kiss my apology...







(…――勿論、キス以上の事も、ですけどね)






--END--

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