「飛び切りの甘さで僕がお相手するよ」
ハロウィン当日の朝に、私がデントに甘いお菓子を強請ってデントから耳元で囁かれた言葉。
あの後、私はデントから言われた言葉がずっと気になっていた。レストラン開店前準備中の時にポッドから「ナマエ、何か今日おかしくね?」なんて突っ込まれた。別に好きでおかしくなってるわけじゃない。
レストラン開店後にジムへのチャレンジャーが来た時にも、ボーッとする事が多かったせいかチャレンジャーのポケモンから攻撃を受けたヒヤップがバトルを見物していた私を目掛けて飛んできた事に気付かず、そのまま床へと倒れ込んだりもした。
ヒヤップのクッションになってしまった私は背中を思い切り床に打ち付けてしまい、その様子を傍で見ていたポッドが駆け寄って来た。ヒヤップも心配そうに私をジッと見つめていた。
『あいたたた…』
「ヒヤッ…」
『ん、大丈夫だよヒヤップ。ヒヤップこそ平気?』
「ヒヤップ!」
ナマエの問い掛けにヒヤップは大きく頷いた。どうやら、ナマエがクッションになったお陰で大きなダメージは受けていないようだった。
「ナマエ!大丈夫かよ!?」
ポッドはナマエの背中を軽く摩りながらナマエを心配した。
『大丈夫だって、少し背中打っちゃっただけだから』
「今は平気でも、後から痛み出てくんじゃねーか?」
『その時はその時だよ。ほら、ヒヤップ、まだ試合は終わってないんだからフィールドに戻らなきゃ』
ナマエに促され、ヒヤップはバトルフィールドへと戻った。コーンも一度はナマエを心配したが、ナマエの言う通り、まだバトルは終わっていない。コーンは早く決着をつけてナマエに謝りに行くことにした。
「ナマエ、立てるか?」
『へ、平気…大丈…痛ッ!』
ナマエの背中に激痛が走る。どうやら打ち所が悪かったらしい。
「オイオイ!全然平気じゃねェじゃん!ほら、肩貸してやっから!」
『ゴ、ゴメン…』
「バトル見物は此処までにして部屋で休んでろ」
『う、うん…でも…』
ポッドに促されるもナマエは、その場から動こうとせず、審判をしていたデントへと視線を送った。
「デントが気になんのか?」
『え、あ…いや…』
「デントだって、ナマエのこと心配してるって。ただ審判してっからバトル終わるまでは、こっちに来れねェよ…」
『うん、分かってる…』
「ほら、行くぞ」
ナマエは渋々ポッドの言う通りに部屋で安静にすることにした。部屋に戻ってからは打ち付けた箇所にポッドから湿布を貼って貰った。
『ポッドって、こういう時だけお兄ちゃんみたいだよね』
「馬鹿野郎、いつも兄貴みてェだろうが」
『えー、そうかな?』
「そういうことにしとけって。…さて、そろそろバトルの決着もついた頃だろうし、二人のこと呼んで来るぜ」
『うん、有難う…』
ナマエの手当てを終えたポッドは、ベッドに横たわるナマエの頭を軽く撫でて試合を終えたであろう兄弟二人を呼びにナマエの部屋を後にした。
ポッドが部屋を出てから、暫く経つとドタドタと床を走る音が聞こえてきた。
「ナマエさん!」「ナマエッ!!」
『コーン、デント…』
コーンは血相を変えながらナマエの元へ駆け寄った。デントもコーンの後ろを着いて行き、ベッドに横たわるナマエを心配そうに見つめていた。
「申し訳ありませんでした、ナマエさん…」
『大丈夫だって、コーン。私がボーッとしてたのがいけないんだから』
「ポッドから聞きましたよ。背中を強く打ってしまったらしいですね…」
『うん、少し打ち所が悪かったみたいで。でも今は平気だよ?ポッドに手当てして貰ったし!』
「そう、ですか…。暫くは安静にしていて下さいね。このコーンに出来ることがあったら、いつでも言って下さい」
『有難う、コーン。その気持ちだけで充分だよ!』
心配するコーンにナマエはニコリと微笑んだ。その笑顔にコーンも安心したのか、その場の空気を読み「ヒヤップを待たせているので」と言って、デントとナマエを残し部屋から立ち去った。
(恋人同士、二人きりにしてあげた方が今はデントにとってもナマエにとっても良いでしょうしね…)
『デント…』
「背中は大丈夫じゃなさそうだね」
『平気だってば!』
「そうやって強がるのは良くないよ」
『つ、強がってなんか…』
鋭い眼差しで私を見下ろしてくるデント。少し怒ってるような感じがする…。
「ポッドに手当てして貰ったんだって?」
『う、うん…』
「そっか」
『…デン、ト?』
「その調子じゃ今夜は無理そうだね」
『え…?』
「今朝、飛び切り甘いのが欲しいって言ってただろう?」
『あ…、』
あんなに気になってたのに、バトル中に起きたアクシデントのせいですっかり忘れてた…。
『で、でも…!』
「その怪我じゃ無理だよ。というより、怪我をさせたのは僕のせいだしね。今朝、僕が言った言葉を気にし過ぎてボーッとしてたんだろう?」
『そう、だけど…』
「これから甘いスイーツを作ってくるから、今日はそれで我慢してくれないかな?
」
『・・・、だ…』
「ん?何、ナマエ?聞こえないよ」
『…――ヤダ!』
「…ナマエ…」
『私は飛び切り甘いのが良いの!デント以上に甘いモノなんて存在しないの!』
最初はデントが作ったお菓子でも良かったけど、デント自らが私に言ったんだもの!僕が相手をするって!
『お願い、飛び切り甘いの頂戴…?』
ナマエは背中の痛みに耐えながら上体を起こすと、傍にいるデントの腰周りにギュッと抱きついた。
「ナマエには敵わないな、ホント…」
『え…?』
僕は腰に抱きつくナマエを腰から離れさせると、背中を庇いながらナマエをベッドへ押し倒した。ナマエは一瞬戸惑いと驚きの表情を浮かべ僕を見つめていた。
次第に紅く染まっていく頬を僕は両手で優しく包み込み、ゆっくりと顔を近付け、潤んだナマエの唇に口付けた。
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