…――その晩、ナマエは寝衣に着替えてからデントの部屋へと向かう準備をしていた。ポッチャマには事情を説明し、今日だけクルミルと一緒に寝て貰うようお願いした。



『それじゃ、クルミルのことお願いね』

「ポチャ!」

『クルミルもポッチャマの言う事をちゃんと聞いてね』

「クリュ!」



二匹の頼もしい返事を聞いてからナマエは部屋を後にした。











デントの部屋、扉の前で一度立ち止まり深く深呼吸をするナマエ。今までドキドキした事は何度もあったけれど、こんなにもドキドキするのは初めてかもしれない。

ナマエはコンコン、と小さく扉をノックした。ノックのすぐ後にデントの声が返ってきた。



「はーい」



ガチャリ、と開かれる扉。扉からひょっこりと顔を出すデントの表情はいつもと変わらない優しい笑顔だった。



「さぁ、どうぞ入って」

『お、お邪魔します…』



ドキドキと煩い心臓の音がデントに聴こえてはいないか少し不安になりながらも、デントの部屋へと足を踏み入れるナマエ。



「ナマエさん、緊張してる?」

『そ、そりゃ…!』

「そうだよね、僕も予想以上に緊張してるんだ」

『そうは見えないですけど…』

「本当?なら良かった。あ、ゆっくり眠れるようにハーブティーを淹れてあるんだけど、どうかな?」

『の、飲みたいです…!』



室内に漂うハーブの良い香りが鼻を擽る。そういえば、出会ったばかりの頃にもこんな事があったな、と思い返すナマエ。今では懐かしい思い出のひとつだ。



「はい、どうぞ。少しは緊張がほぐれると思うよ」

『ありがとうございます、頂きますね』



差し出されたティーカップを受け取り、そっと口に運ぶ。



『…ん、やっぱり美味しいです』

「良かった」

『私、デントさんが淹れてくれた紅茶が一番大好きです。ほっとするっていうか、心が落ち着くんです』



一口、二口と少しずつハーブティーを口に運びながら語るナマエの言葉にデントは一瞬だけ余裕の無い表情を見せるが、ナマエは気付いてはいなかった。



「…これからもずっと、」

『え…?』

「僕の淹れた紅茶とかデザートとか、傍で美味しいって言ってくれるナマエさんを隣で見ていたいな…」



デントの言葉に目を丸く見開くナマエ。



『デ、デントさん…』

「あはは、何言ってるんだろうね。気にしないで」



気にしないで、という言葉にナマエはふるふると首を横に幾度か振ってみせる。



『わ、私も…!いつもして貰ってばかりで申し訳ないとは思ってるんですけど、私もデントさんと同じ気持ちですからね』

「ナマエさん…」

『外でも言ったじゃないですか!ずっと傍に居てくれたらって…!一緒に思い出を作ったり、共有したりって…まさか忘れちゃったんですか?』

「忘れてなんかいないよ。ごめん、ナマエさん…」

『…何で謝るんですか』

「ううん、僕もまだまだだなぁって」



飲み干されたティーカップをナマエの手元から受け取りながら、困ったように笑うデント。



『…むぅ。ハーブティーの効果なのか、緊張取れちゃいました』

「本当に?早いなぁ」

『ふぁ…デントさん、ベッド入っちゃいますからねー』

「あ、うん」



何かに吹っ切れたようにナマエはデントのベッドにもぞもぞと身体を潜らせる。勿論、自分一人で寝るわけではない為、なるべく端に身体を寄せた。



『ふかふか―…』



布団の柔らかさが身体を包むと眠気が増したような気がしたが、それも一瞬のうちに掻き消されてしまった。

突如、後ろから抱き締められる感覚にハッとするナマエ。



『ひゃ…!デ、デントさん…?!』

「ごめん、こうさせて。大丈夫、変な事はしないから安心して」



安心して、と言われるもベッドという狭い空間の中で抱き締めらている現状に戸惑いを隠せないナマエ。心臓はバクバクと鼓動も早く煩い。



『…ッ、デントさん』

「ん…?」

『い、いつまでこうしていれば…?』

「うーん、朝までって言ったら?」

『あ、朝!?や、無理無理!無理ですよー!』



デントに背を向けた状態で首を横に勢い良く振るナマエ。



「残念だなぁ。じゃあさ、ひとつだけ良いかな?」

『な、何でしょう…』

「こっち、向いてくれないかな…?」

『・・・ッ、』



デントに言われ、一度だけ深呼吸してから無言で身体をデントに向ける。



「ありがとう、でも顔が真っ赤だね」

『…ッ、意地悪』

「あはは、ごめんごめん。でも、そんなナマエさんも凄く可愛いよ」

『も、もう…!デントさ――…ふッ、』



優しく重ねられた暖かい唇。言い掛けていた言葉なんて、すぐに忘れてしまった。

口付けの合間に「好きだ」と幾度か囁かれるように言われたものの、何回言われたかなんて数えられないくらい口付けに支配されてしまっていた。




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