「もう泣き止んだかい?」
『う、はい…』
「少し目元が赤くなってるね、平気?」
薄っすらとだが、泣いた後だと分かる赤みの上をデントの指の腹がなぞる。反射的に瞼をキュッと閉じてしまうナマエ。
あれから暫く町の中を歩いた後、ジムへ向かう帰路に着いていた。
『大丈夫です、多分…』
「ポッドに見られたら怒られそうだなぁ」
『そんな、デントさんは悪くないですからね…!』
「うん、でもポッドの事だからさ。理由を聞く前に行動しちゃうだろうなって」
ナマエはデントの言葉を聞き、それはそうかもしれない、と小さく首を縦に振り頷く素振りを見せた。
「そうだ、ナマエさん」
『何でしょうか?』
「今夜、僕の部屋で一緒に寝ない?」
『デントさんの部屋って…――ええッ!?』
思いも寄らぬ突然の誘いに驚きを隠せないナマエ。
「ご、ごめん!変なつもりで誘ったんじゃなくて…!」
『そ、それは分かってますけど…!』
デントに下心が無い事は良く分かっている。けれど、デントの部屋で一晩共に過ごす事を考えるだけで羞恥が一気に込み上げてきた。
『どうしたんですか、そんな急に…』
「うーん、そうしたくなっちゃってさ。ダメかな?」
『…ダメ、じゃないですけど』
ダメという訳ではないけれど、良いですとも返事がしづらい。きっと沢山緊張して、沢山ドキドキして…朝まで眠れない気がする…。
「無理に、とは思ってないからね?」
『ダメじゃないんですけど、恥ずかしくって…』
「僕も緊張すると思うよ。だって好きな女性が同じベッドで横に居るんだって想像したら、ね…?」
『もし緊張し過ぎて朝まで眠れなかったらごめんなさい…』
「大丈夫だよ」
ナマエは顔を紅潮させては逸らすように自身の足元を見るなり、小さな声で「よ、よろしくお願いします…」と呟くように発した。
気付けばサンヨウジムに到着していた。正面の扉から入ると、そこにはコーンとポッドの姿があった。
「おかえりなさい、どちらへ行かれていたんですか?」
「コーン、ただいま。少し散歩にね」
「そうでしたか、ナマエさんもおかえりなさい」
『た、ただいまです…』
「あれ?ナマエちゃん、顔真っ赤だぜ?」
流石はポッド、ナマエの事なら直ぐに気付いてしまうようだ。ポッドに指摘され、慌てて両頬に掌を当てるナマエ。
『そ、外が暑くて!天気、良かったから…あはは…!』
「そうか?熱とかじゃねぇなら良いんだけどよ」
『全然!元気ですよ…!』
ナマエは無理矢理に笑顔を作りポッドに向ける。顔が紅潮している所為で泣き後は目立たずに、そのまま気付かれる事はなかった。
「あ、そういえばナマエさん」
『は、はい!』
「新しい仲間が増えたこと二人に知らせてなかったよね」
『そ、そういえば…!』
すっかり忘れていたと慌てて腰ポケットからモンスターボールをひとつ取り出すナマエ。何だ何だ、とコーンとポッドは不思議そうにナマエの手元を見つめている。
『出ておいで!』
ナマエの掛け声と共にモンスターボールから赤い閃光が放たれる。出てきたポケモンはクルミルだ。
「クリュ〜!」
「うおッ!もしかしてタマゴだったポケモンか!?」
「これはクルミルですね」
『はい、漸く孵化したんです。クルミル、この二人はコーンさんとポッド君』
「クリュ?」
クルミル自身、何だかよく分かっていない様子。そんなクルミルに暖かく大きな手が乗せられた。
「クルミル、初めましてだな。俺はポッドだ、よろしくな。んで、隣に居るのがコーンだ」
手の持ち主はポッドだった。ぐりぐり、と少し荒い手つきでクルミルの頭を撫でている。
「ク、クリュ〜!」
『クルミル、嬉しそう。良かったね、クルミル』
「クリュ!」
コーンとポッドにも温かく迎えられ満足そうなクルミルを親のような気持ちで見つめるナマエ。そんなナマエを優し気な眼差しで見つめるデントだった。
君 を 護 る た め に
(…――きっとこのクルミルはポッチャマに負けないくらい素晴らしいポケモンに育つだろうな、)
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