『今日も雪かぁ…』
普段のサンヨウシティに広がる青空は、ここ暫く雪雲で覆われていた。その雪雲からはヒラヒラと真っ白な綿雪が、このサンヨウシティに向って舞い降りていた。
『いつになったら晴れるのかな…春はもう直ぐだっていうのに…』
別に雪が嫌いというわけじゃない。寧ろ、その逆…雪は好きな方だ。今日みたいな綿雪も好きだし、沢山積もった時の光景も大好きだ。
「ナマエ、こんな所で何をしてるんだい?」
『あ、デント…』
…――何て、サンヨウシティに舞い降りる雪をサンヨウジムの玄関先の階段に座り込んで"ボー…"っと眺めていると屋内から出て来たデントに声を掛けられた。
「こんな所に居ると風邪引くよ?」
『大丈夫だよー…』
「大丈夫なわけないだろう?ほら、中に入って温かい紅茶でも飲もうよ」
『もうちょっとだけ、此処に居たい…』
「まったく、困った子だなぁ…」
『そんな困った子を好きになったのは何処の誰ですかー?』
「……、」
ちょっとだけ、デントに意地悪な台詞を言ってみるとデントは無言で屋内に戻って行ってしまった。嗚呼、今ので嫌われてしまったかもしれない…けれど、自業自得だ。
『んぅ、寒い…』
こうやって座り込んだまま動かないでいるから寒いのか、それとも外の気温が先程よりも下がったから寒いのか…どちらが正解かなんて分からないけど、寒い事には変わりない。
もう少し、この場所で外の景色を眺めていたかったが、そろそろ寒さの限界。仕方なく屋内に戻ろうと立ち上がろうとした――…その時だった。突然、両肩に暖かい何かが"ふわり"と掛けられた。
『わ…!』
「そんな薄着だと風邪引くのは間違いないよ」
『デン、ト…』
両肩に掛けられていたのはデントが外出時に着用しているモスグリーン色のロングコートだった。気のせいだろうか、デントに抱き締められているような…そんな感じがした。
「こうしていれば、暖かいだろう?」
『うん、とっても暖かいよ。有難う、デント…』
「どう致しまして。それにしても、雪って綺麗だよね」
『デントも、そう思う?』
「うん、光に反射してキラキラしている雪は本当に綺麗だと思うよ」
『あ、それ分かる。凄く綺麗だもんね』
「…ナマエには劣るけどね」
『え…?』
…――今、とんでもない事を言われたような気がした…否、確実に言われた。その事についてデントに問い質そうと後ろを振り返ると既にデントの姿は無く、どうやら屋内に退避してしまったようだ。
『言い逃げなんてズルイよ!デントの馬鹿…』
そう言って、ナマエは愚痴を零しつつ肩に羽織ったコートが落ちぬよう、しっかりと握り締め屋内へと戻って行った。
春 は 目 前 に
(ズルくても良いさ、だって本当の事だから――…)
--END--
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