「ナマエさん、お待たせ」
『いえ、』
一番隅の客席でデントを待つ間、先程触れ合った唇が熱を持ったようにじんわりとした感覚を覚える。初めてのキスではないというのにドキドキと高鳴る鼓動は止みそうになかった。
君 を 護 る た め に
外に出ると雲一つない青空と天に上った太陽の日差しが二人を照らす。そんな暖かなポカポカ陽気の中を二人肩を並べ、同じ歩幅で何処に行く訳でもなくゆっくりと歩いた。
「良い天気だね」
『そうなんですよ!部屋に居るのが勿体無くて、』
「こうやって二人で町の中を歩くのは初めてだね」
『出会った時にポケモンセンターに寄ったくらいですもんね』
「うん。つい最近の事なんだけど、何だか懐かしく感じるなぁ…」
初めてナマエとヤグルマの森で出会った時の事を思い出すデント。ナマエがプラズマ団と遭遇していなければ自分と出会う事は無かったのだろうと思うとプラズマ団にも感謝すべきなのかと、ふと思ってしまった。
「少しだけ、」
『はい?』
「ほんの少しだけど、プラズマ団に感謝してる僕って変かな…」
『・・・?』
デントの言葉がよく理解出来ず頭を傾けるナマエ。
『感謝、ですか…?』
「プラズマ団がナマエさんを見つけていなかったら僕とヤナップもナマエさんを見つける事が出来なかったんだって思うと、少しね」
『た、確かに…』
プラズマ団に追い掛けられていなければ、今頃別の町でポッチャマと二人旅をしていたかもしれない。そう思うと、何だかモヤモヤとした不思議な気分になった。
「こうやって肩を並べて歩く事も無かっただろうし」
『そう、ですね…』
「だから、少しだけ感謝してる」
デントはニコリとナマエに向かって微笑み掛けながら、ナマエの手を握った。
『デントさん…』
「君を見つけてくれたヤナップにも感謝しないとね」
『ぷッ、確かに』
「でも、やっぱり一番は――…」
ぐい、と急に手を引かれ身体がぐらりと傾いた。気付けばナマエの身体はデントの胸の中にすっぽりと収まっていた。
『デ、デントさん…!?』
「一番は君に感謝してる」
『…――ッ、』
「僕の傍に居てくれて、好きになってくれて、ありがとう」
『デン、トさ…ッ』
デントの言葉に胸が熱くなった。
"ありがとう"
自然と涙が溢れてしまった。どんなに堪えようとしても、それは止めどなく溢れ出てくる。
「あれ、ナマエさん…もしかして泣いてる?」
『な、泣いて…ないです…!』
「あはは、すっごい泣いてる」
ポロポロと溢れる涙を指の腹で拭うデント。
「ナマエさんのそういう所も僕は大好きだよ」
『わ、たし…だって…デントさんの事が大好きですよ…!』
「うん、ありがとう」
ぎゅ、とナマエの頭を抱え込むように抱き締める。ポカポカとした陽気にも負けないくらい、とても暖かな包容だった。
「自分でも吃驚するくらいナマエさんが好きなんだ、どうしたらいいかな?…――なんて、ナマエさんに聞くのは間違いだね」
『…ずっと、』
「ん?」
『ずっと傍に居てくれれば良いと思います…、私もずっとデントさんの傍に居ます。二人で共有しましょう、これから起きる事や気持ちとか…』
デントの胸元に顔を埋めたまま、小声で言葉を紡いでいくナマエ。こんな事を言うのは照れ臭いのか、顔を上げる事は出来なかった。
「…うん、そうだね。前にも同じ事を言ってくれたの覚えてるよ」
『ふ、二人の思い出を沢山作りたいですから…』
「うん、僕もだよ。今、こんな風にしてるのも良い思い出になるね」
透き通った細いナマエの髪を梳くように撫でるデント。またそれを心地良いと感じるナマエ。
「もう少し町を歩いたら戻ろうか」
『…ん、はい』
「外だと人の目もあるし、続きはジムに戻ってからだね」
『…――ッ!』
この続きがあるのかと思うと、顔が熱くなる感覚を覚えるナマエだった。
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