「ふざけるな!」



とある一室にて、突如響き渡るケフカの怒号。あれから、ケフカとナマエはセリスの元へ赴いていた。





師 と 私 と 





「ふざけてなんかいません。考えた結果、こうして頼んでいるのです」

「そんな馬鹿げた事を俺様が許すと思ってるのか」



ナマエはケフカの口調が徐々に荒くなっていく様を横で黙って聞いていた。

セリスに呼ばれた理由、簡単に言ってしまえば戦線にナマエを立たせる事だった。それは一度ではなく、今後常にと言うのだ。勿論、ケフカは許さなかった。



「先のドマとの対戦では多くの兵を失いました」

「代わりは幾らでも居るだろう」

「命には限りがあります。故に大きな戦力になるナマエにも戦線に立って欲しいのです」

『あ、あの…』



ケフカの隣でずっと黙り込んでいたナマエが漸く口を開く。しかし、ナマエが言おうとした言葉は直ぐに遮られてしまった。



『以前、レオ将軍に――…』

「その件は知っています。レオには伝えてありますから問題ありません。まぁ、止められはしましたけど」

「絶対に許さないからな」

『ケフカ様…』

「ナマエの力は本当に素晴らしいものです。いつまでもケフカの傍で何もせず、力を持て余しているのは勿体ない。ナマエは何の為にケフカの元で学んだのですか?そうやってケフカの隣でただ過ごすだけの毎日を送る為ですか?」



セリスの言葉に思わず生唾を飲み込む。セリスの言っている事は正しい、と自分でも思うナマエ。ケフカの役に立ちたいと、ずっと思っていた。

一度は失敗してしまったものの、次こそはと機会を待っていたのもまた事実。ナマエは拳をギュッと握り締め、ケフカを見上げた。




『ケフカ様、私…』

「ダメですよ、ナマエ」

「ケフカ!」

「うるさいぞ、女剣士!」

『ケフカ様、お許しを…』




セリスの提案を断ればケフカの怒りを買う事はないだろう。分かってはいる事だが、断るという選択肢は今のナマエには無かった。




「ダメだって言ってるのが分からないんですか、ナマエ」

『分かってます!でも…!戦陣に赴かれる度にいつまでもケフカ様の帰りを待つのは辛いんです…!』

「ナマエ、やれますか?」

「ナマエ!そいつの言う事を聞くんじゃないぞ!」

『・・・ッ、』




二つに割れる意見に言葉に詰まるナマエ。ケフカがナマエを止めるのはナマエを大事にしているが故の事。それは十二分に理解していた。




「…一度、部屋に戻りましょ」

『ケフカ様…?』

「直ぐに答えを出す必要はないだろ、セリス」

「…まぁ、そうですね」

「帰りますよ、ナマエ」

『わ…ッ、』




グイ、と手首を掴まれはケフカは踵を返し部屋へと戻ろうとする。




「ナマエ、良い返事を期待していますよ」



帰り際、セリスにそう言われた。勿論、ケフカの表情は怒りに染まっている。嗚呼、また怒られてしまうのだろう…。もしかしたら殺されるかもしれない。そんな事を脳裏に過らせながら、ケフカに腕を引かれるまま部屋へと戻る。






「…ナマエ、」

『は、い…』



普段よりも低めのトーンで静かに名を呼ぶケフカ。



「独りで戦線に立つという事はどういう事かわかる?」

『え…、』



部屋に戻るまではケフカに何らかの仕置きをされるのだろうと思っていた。しかし、そんな気配は全くと言ってなく、淡々とした口調で尋ねかけてくるだけだった。



「独りといっても兵士は就くでしょうが、」

『え、と…』

「ナマエ、」

『はい…――ッ!』



突然、ケフカに抱き締められた。逃がさない、離さない、そんな気持ちが込められた様に力強く。



「守ってあげられないんですよ、」

『え…?』

「ワタシが一緒なら未だしも」

『ケフカ様…』

「万が一、ナマエの身に何かあればワタシはセリスを許さないでしょう」



気の所為か、ケフカの声が微かに震えている様に聞こえた。



「何かあってからでは遅過ぎる、ワタシと一緒ではない戦線に立つ事は許しません」



嗚呼、此処まで自分の事を大切に想ってくれる人が居る…何て幸せ者なんだろうか。ナマエはケフカに抱き締められたまま、少し悩み、考えを改めた。



『…わかりました、』

「ナマエ…」

『二人でなら、良いのですね?』

「…まぁ、一歩譲って」

『セリス将軍に相談してみます。独りでならばお断りしますから、それで大丈夫ですか?』

「仕方ありませんね、本当は戦闘自体避けて欲しいところなんだけど」



ハァ…、と深い溜め息を吐くケフカ。やはりナマエにはケフカの気持ちを無視する事は出来なかった。そして、自分の意思も。



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